わが家と同じ住所の「もう1つの家」が存在したら......不安と恐怖と怒りの実体験
ニューズウィーク日本版 / 2023年10月20日 15時10分
これで話が終わりだったら良かったのだが。あるとき僕が休暇から帰ってくると、ドアにメモが挟まっていた。「この家は空き家です。詳しい情報は以下の電話番号にお問い合わせください。075xxxxxx」。僕は意味がわからず、不安が押し寄せた。近隣の何者かが僕が不在にしているのに気付き、僕の家を不法占拠者に貸し出す計画でも立てていたのか? このメモは最初はわが家のドアに貼り付けられていたのを、親切な隣人が気付いて「隠しておいて」くれたのだろうか?
事の顛末はこうだった。通りの向こうに住んでいた外国人の居住者は引っ越していったらしい。そして賃貸業者が間違って僕の家に来た。というわけで、振り出しに戻ったのだ。
僕がそれを知ったのは2日後のこと。業者に依頼された作業員が電気を止めるために僕の家にやってきて、玄関ドアを開けようとしたからだ(鍵がかかっていたからもちろん開かなかった)。少なくとも彼は、住所の混乱が発生していることについては業者に報告を上げていた。空き家だと言われた家に向かったはずが、怒った男性が出てきて「家宅侵入」しようとした理由を問い詰めてくる、という衝撃の事態から立ち直った後のことだ。
これはある意味では奇妙な偶然の重なりだが、別の意味ではそうとも言い切れない。1つ1つの失敗には、イギリス的な要素が少しずつ見て取れる。いい加減な不動産開発業者、わずかに残るあらゆる土地が住宅地に作り替えられていること、不在地主の問題、不幸な移民が新天地イギリスで騙されていること、そして住所がおかしいという明らかな説明を5つ6つと並べ立てても対応できないお役所仕事......とはいえ、お役所のミスによって問題が起こると、結局は他の誰か(僕のことだ)への非難や嫌がらせになってしまう可能性だってあるのだ。
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