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「NASAに履歴書を11回送り続けた」...貧しい移民労働者の子がつかんだ「宇宙飛行士の夢」

ニューズウィーク日本版 / 2023年10月26日 14時20分

そのとき私は宙に浮かびながら、自らの能力を疑う気持ちに打ち勝ち、子供時代の夢を成就させたのだと実感していた。

シャトルのフライトデッキ(操縦エリア)からミッドデッキ(居住エリア)に移動する途中で窓の外に目をやり、初めて宇宙から地球を見た。漆黒の闇の中に、青と白と茶色の球体が浮かんでいた。

宇宙飛行士を辞めた理由

そのとき、私は地球の大気層の薄さを目の当たりにして、私たちの世界がいかにもろくて壊れやすいか、そして世界がいかに一つにつながり合っているかを改めて認識した。

北米大陸の上空を通過したときには、カナダとアメリカとメキシコがはっきりと見て取れた。しかし何よりも衝撃を感じたのは、カナダとアメリカの境、さらにはアメリカとメキシコの境を見分けられなかったことだ。

私はすぐに思い至った。国境とは、人と人とを切り離すために人工的につくられたものにすぎないのだ。そして、それは悲しいことだと感じた。世界のリーダーたちにも私のように、地球の美しさと脆弱さを自分の目で直接見る経験をしてほしいと心から思った。

国際宇宙ステーション(ISS)で過ごした13日間は、驚きと学びと内省の日々だった。数々の科学的実験、ほかの宇宙飛行士たちとの仲間意識、そして静かな黙考の時間......その経験を通じて私は大きく成長することができた。

まだ一度しか宇宙へ行っていないのにNASAを辞めるというのは、常軌を逸した発想にも思えた。けれども、スペースシャトルの退役が決まっていて、差し当たりはロシアの宇宙船「ソユーズ」が宇宙に飛び立つための唯一の手段になる見通しだった。ソユーズに搭乗するためには、ロシアで膨大な時間の訓練を受けなくてはならなかった。

当時、わが家の5人の子供は6~15歳だった。NASAを辞めて、子育てに時間を割くことを決意した。

いま私は、航空宇宙工学関連のコンサルティング、自己啓発関連の講演、書籍の執筆、そしてブドウ園の所有と経営を仕事にしている。農場労働者の一家で育った私がこうして再び農場の仕事に携わるようになり、人生の原点に戻ったように感じずにいられない。

私は、子供の頃からいつも新しいことを学びたいと思い続けてきた人間だ。ブドウの栽培とワイン醸造業者への販売だけでは満足できず、ワイン造りのプロセスに興味をそそられて、「ティエラ・ルナ・セラーズ」という自分のワイナリーも立ち上げた。

どんなに成功の確率が乏しいように思えたとしても、夢は実現できる。裕福には程遠い子供時代から出発して、宇宙飛行士になる夢をかなえた私の人生の物語は、人間が逆境を乗り越えて夢を実現する力を持っていることを実証するものと言えるだろう。

試練に直面しても諦めずに粘り強く努力し続ける姿勢は、私たち誰もが身に付けられる真の「超能力」なのだ。

(筆者をモデルにした映画『ミリオン・マイルズ・アウェイ~遠き宇宙への旅路~』がアマゾン・プライムビデオで配信中)

移民農業労働者の子が宇宙飛行士になるまで

How an immigrant farmworker beat the odds to become a NASA astronaut/ABC News

    

『ミリオン・マイルズ・アウェイ~遠き宇宙への旅路~』公式トレイラー

A Million Miles Away - Official Trailer | Prime Video

ホセ・ヘルナンデス(元宇宙飛行士)


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