白砂青松の海岸林よりも雑木林が津波に強い? 横国大が東日本大震災前後の航空・衛星写真を分析
ニューズウィーク日本版 / 2023年10月28日 9時40分
海岸近くの林が風や砂、波を防護する機能を持つことは、古くから経験的に知られていたようです。植林によって意図的に海岸防災林が作られた記録が書物に現れ始めたのは、8世紀頃です。常陸風土記(721年)によると、慶雲年代(704〜707)の若松浦の松原(茨城県神栖市)は、防砂機能のため伐採が禁じられていました。室町時代(14~16世紀)には、長崎や土佐にクロマツ林が植栽されたといいます。
江戸時代になると、海岸林は本格的に造成されるようになりました。それから数百年経った現在は、1987年に「白砂青松100選」が選定されたように、海岸にクロマツ林があるのは日本の原風景とも言えるようになりました。
東日本大震災で津波被害を受けた地域を見ても、白砂青松100選にも選ばれている岩手県の高田松原は350年以上前から育成されていました。同じく被災した宮城県の仙台湾南岸域の海岸林は、仙台藩の開祖である伊達政宗の命により400年以上前に造成されたものです。江戸時代に藩の主導で作られた各地の海岸林は、国や自治体、地域の人々によって、現在にいたるまで植栽や維持管理が続けられてきました。
航空・衛星写真で被害程度や樹木の分布状況を評価
今回、横浜国立大の研究チームは、東日本大震災において津波被害を最も受けた宮城県の海外林を対象にして、津波到達前後の航空・衛星写真を用いて、被害程度や樹木の分布状況を評価しました。この震災で東北地域では約2800ヘクタールの海岸林が津波被害にあっており、そのうち約1800ヘクタールが宮城県だったといいます。
研究者らはまず、津波発生前の衛星画像に基づいて、幅 200メートル以上で、石やコンクリートで作られた防波堤がない海岸林サイト(敷地)を特定し、宮城県の海岸に沿って少なくとも20メートル離れた、津波後に木が残っている50カ所と木が残っていない50カ所の計100カ所の海岸林を無作為に選出しました。調査サイトの標高は1~8メートルで、平均は 3.8メートルでした。東日本大震災では津波計によって測定された海上の最大津波高は9.3メートルだったので、標高10メートルを超える場所は研究から除外されました。
さらに、津波前の写真から樹木種を評価しました。海岸林の全樹木種を特定するのは困難ですが、空から見た樹冠の形や葉の色から常緑針葉樹であるクロマツと広葉樹(ブナやコナラ)の区別は可能だったため、クロマツ単植林か、クロマツと広葉樹が混ざった混交林かに分類しました。また、混交林はクロマツと広葉樹種の空間分布の複雑性の違いによって、①クロマツの中に広葉樹の大きな群生がいくつか混ざった林、②クロマツが優勢で広葉樹の小さな群生がいくつか混ざった林、③クロマツと広葉樹が分離して植えられている林、の3 パターンに分類しました。
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