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恋をするとなぜ私たちは「いい人」になるのか?...池田晶子の「内なる善」とは

ニューズウィーク日本版 / 2023年11月4日 9時25分

Akuma-Photo-shutterstock

<哲学は人を救う...。フランスで哲学の博士号を取得した「挫折博士」が考え抜いた末に見た世界は、なぜ美しくきらめいていたのか? 恋愛と哲学について>

フランスで哲学の博士号を取得し、その将来は順風満帆――とはいかなかった。

躁うつ病を発症し、ドライバー、福祉施設職員、工場勤務と職を転々。研究者の職に就けなかった挫折と、心身が思うように動かない絶望のなかで、「哲学すること」だけはあきらめなかった。

在野の哲学徒・関野哲也氏が、自らのどん底体験から「哲学すること」の豊かさ、善く生きることの大切さを追求してまとめた、『よくよく考え抜いたら、世界はきらめいていた』(CCCメディアハウス)の「第7章 善く生き、善く死んでいくということ」より一部抜粋する。

◇ ◇ ◇

    

恋をする人は「内なる善」を知っている

突然ですが、誰しも人を好きになった経験があると思います。人を好きになったとき、あの素敵な人に相応しくなれるように、もっとちゃんとしよう、もっとよくなろう、もっと善く生きようと自ずと自律的になりはしませんか。

人は人に恋をすると、成長しようとするようですね。恋に落ちたときに、胸の内から聴こえる声、「もっとよくなろう」という声、その声こそが池田晶子の言う内なる善、つまり良心の声だと私は考えています。

ちなみに、人が人を好きになった理由をたずねられて、うまく答えられるでしょうか。その人を好きになった理由はいくらでも挙げられるのですが、反面、これといった決め手については上手く言葉で言い表せない、そんな経験はありませんか。

何となく好き、感じがいいから、笑顔が素敵、フィーリングが合う、など。しかし、決してひと言では片づけられないのが、人を好きになった理由ではないでしょうか。おそらく、人が人を好きになる理由は語り尽くせないもののようです。

よくよく考えると、なぜかわからないけど、その人を好きになり、そのくせ、なぜかわからないにもかかわらず、人は人を好きになると、自ら進んで成長しようとするらしいのです。私たち人間の不思議と言えば不思議な部分ですし、素敵と言えば素敵な部分ですね。

「学び」とは「善のイデア」を思い出すこと

さて、池田晶子の言う内なる善、つまり良心は、あたかも私たちが生まれながらにして善を知っているかのようです。

プラトンは、それを「善のイデア」と呼んだのではないでしょうか。プラトンはその著書『国家』(岩波文庫)において、対話篇の登場人物の一人、師のソクラテスに、次のように「善のイデア」を語らせています。

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