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スペイン・ガリシアの実話を基にした映画『理想郷』:土地争いから始まった悲劇とは?

ニューズウィーク日本版 / 2023年11月2日 17時45分

『ヨーロッパ新世紀』では、クマを保護するフランスのNGOのメンバーに部屋を提供しているルーマニア人の村人が、そのフランス人にこんなことを語る。フランス人にとっては世界=西欧だろうが、ルーマニアはオスマン、ロシア、ハンガリーなど常に帝国の間で苦しみ、2千年にわたって西欧を守る壁になってきた。

本作では、隣人の兄シャンが、ナポレオンのスペイン侵攻に言及して、アントワーヌにこんな言いがかりをつける。「その昔、フランスはスペインを攻めた。俺たちを征服しに来たんだ。だが、失敗して帰っていった。俺たちを軽く見ていたらしい。ナポレオンはこう言ったんだ。"スペイン人はクソ野郎だ"。今でもフランス人はそう思ってるのか?」

また別の場面で、シャンは、村の出来の悪い若者が街に出て詐欺でも働けば、自分たちも悪者に見られ、しまいにはガリシア全体にも悪評がつく、というようなことを語ったかと思えば、アントワーヌの計画に対して、仮に外国人の移住者が来ても、自分たちの醜い姿を見れば一目散に逃げ返るとも語る。

ほとんど村を出たこともなく、結婚もできず、「ゴーストタウンのような村」で埋もれていくしかないシャンのなかには、ガリシア人としてのコンプレックスや誇りがせめぎ合っている。

伝統と現代の対立

さらに、『ヨーロッパ新世紀』では、地元のパン工場が、EUから補助金を得る条件を満たすために、外国人労働者を雇用したことがトラブルの発端になっていた。本作では、村に風力発電の開発の話が持ち上がり、それを受け入れれば村人たちはノルウェーの企業から補償金を得られるが、アントワーヌを含む少数の村人が計画に反対していた。それも隣人との関係がこじれる要因になっている。

そしてもうひとつ、『ヨーロッパ新世紀』の記事では言及しなかった要素にも触れておきたい。それは、一部の村人たちがクマの格好をして通りを練り歩く習慣だ。それは人が獣と一体になり、丘の者と谷の者が戦う伝統行事だと説明される。

本作の原題は「AS BESTAS」で、長い歴史を持つガリシアの馬の祭り「Rapa das Bestas(野獣の毛刈り)」からとられている。本作の冒頭には、「ガリシア地方の男は野生の馬を素手で捕まえ、印を付けて、再び野に放つ」という前置きが浮かび上がり、実際に男たちが馬に飛びかかって格闘しながら押さえ込み、最終的に一体となるような様子が描き出される。

ふたりの監督は、人と獣が一体となるような伝統と、すでに伝統が失われているように見える村で行使される暴力を、「野獣」というキーワードで結びつけ、対置している。

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