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【スクープ】中国のAI研究者に米政府が3000万ドルを渡していた...朱松純の正体、あの「千人計画」との関係

ニューズウィーク日本版 / 2023年11月10日 11時48分

ゼアーは上海にある復旦大学の「高度人材計画」のメンバーにも選ばれていた。

大物はほかにもいる。

やはりアメリカ人化学者であるチャールズ・リーバー(ハーバード大学教授、休職中)は、中国の「千人計画」との関係について政府当局にウソを述べ、武漢理工大学で有給の職に就きながら申告せず、法律で義務付けられた所得の申告を怠ったとして20年に逮捕され、今年4月に未決勾留期間に加えて罰金を科されている。

「国防七校」で指導教官

朱とアメリカの縁は深い。中国の大学でコンピューター科学を専攻し、卒業してからアメリカに留学した。1996年にハーバード大学で博士号を取得し、ブラウン大学、オハイオ州立大学、スタンフォード大学に職を得た。

2001年には海軍から若手研究者を対象とする賞(賞金額は今なら75万ドル)をもらい、NSFからも新進気鋭の研究者として34万ドルを授与されている。03年には、コンピュータービジョンの分野で優れた論文を表彰する「マー賞」を贈られた。

その一方、中国でも多くの役職に就いていた。04年には武漢近郊の故郷・鄂州(がくしゅう)で、前出の沈(今でもマイクロソフト社の「名誉研究員」だ)と一緒に「蓮花山計算機視覚与信息科学研究院」を設立した。

中国の国営メディアなどによると、夏休みの間は中国に滞在し、それ以外の時期も中国の研究者と連絡を取り合うのが通例だったらしい。

10年には鄂州出身者として初めて、中国共産党の主導する「千人計画」のメンバーに選ばれた。

「戦略的科学者、および重要技術において突破口を開き、ハイテク産業を発展させ、新興の研究分野を推進できる指導的な科学技術分野の人材」を海外から中国に帰還させるのが「千人計画」の目的とされる。

朱はまた、中国の軍事研究と防衛産業を支えるという使命を掲げる7つの大学、通称「国防七校」(「国防七子」とも)の1つである北京理工大学で、博士課程の指導教官と研究員も務めていた。

UCLAでの教え子の多くも、今はBIGAIで朱に合流している。その一人である劉航欣(リウ・ハンシン)は、BIGAIのウェブサイトに掲載された情報によると、ロボット工学研究部門のチームリーダーだ。

そこではUCLAと似た研究計画で、例えば人間の知的行動を支える「認知アーキテクチャ」を解明し、知覚や推論、運動の準備を通じてロボットに自律性を持たせるための研究が続けられている。

ちなみに、アメリカ政府の助成金を得て朱が(教え子や同僚と共に)進めた研究の成果は、今も複数の論文で発表され続けている。

22年のある論文は、画像や動画データの「外観と幾何学的情報を分離」し、「色や照度、アイデンティティー、カテゴリー」を識別することを目的としていた。

筆頭著者はハルビン工程大(やはり国防七校の1つだ)の邢向磊(シン・シアンレイ)。共著者には朱や、以前に朱が属していたUCLA統計学部の呉英年(ウー・インニエン)教授らが名を連ねる。

そして末尾の謝辞欄には、助成金の提供元としてDARPAとNSFに加え、中国の国家自然科学基金と黒龍江省自然科学基金の名があった。

呉英年教授が率いるUCLA視覚・認知・学習・自律性研究所の面々 CENTER FOR VISION, COGNITION, LEARNING, AND AUTONOMY, UNIVERSITY OF CALIFORNIA, LOS ANGELES

ディディ・キルステン・タトロウ(国際問題・調査報道担当)


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