トランプ政権下で国家機密の漏洩事件を引き起こした女性の実像、映画『リアリティ』
ニューズウィーク日本版 / 2023年11月17日 19時14分
本作の尋問のなかで、リアリティの記憶が曖昧なために、機密文書を印刷した日にちを思い出せないとき、捜査官は「5月9日では?」と問いかける。そこで彼女が何曜日だったかを尋ねると、捜査官はすぐにわからず、スマホで調べて火曜日だと答える。
この場面は実に興味深い。5月9日はFBI長官が解任された日で、前掲書にはFBIの反応が以下のように綴られている。
「一方、FBIの職員たちも大いに困惑し、憤慨していた。元捜査官のボビー・チャコンはこの解任について『全職員がみぞおちにパンチをくらったようなものだ』と述べた。彼はガーディアン紙に対して、解任は無礼で言語道断な行為であり、FBIの評価を汚すものだと断言した。ほかの者たちは、これは進行中のロシア関連の捜査に『委縮効果』をもたらすだろうと予測した」
それを踏まえるなら、捜査官はすべてわかっていながら、最小限のヒントを提示して、リアリティ本人に思い出させようとしているように見える。それは、捜査官の以下のような発言にも表れている。
「私の考えでは君は腹黒い大物スパイではない。動機はよくわからないが、今の政治の全てに対する怒りかもと思う。テレビをつけると腹が立つことばかり。私はね」
これに対して、リアリティは、「私にとって職場は苦痛だったんです。書面でも訴えました。FOXニュースの垂れ流しはおかしい」と語る。
本作では、こうしたやりとりを通して、プロローグのニュースが流れる空間で起こっていたことが次第に明らかになっていく。
リアリティの内面と彼女を動かした要因
しかし、リアリティを行動に駆り立てたのは、ロシア疑惑をめぐる政治に対する怒りだけではない。本作は、音声記録に基づいているので、彼女が個人的なことを語る発言は限られているが、彼女のことをもっと知ると、その発言が様々なヒントになっていることがわかる。
リアリティについては、本作のほかに、彼女の人生が、スザンナ・フォーゲル監督、エミリア・ジョーンズ主演の『Winner(原題)』として映画化されることが決定している。その物語のベースになるのは、脚本を担当するケリー・ハウリーが2017年に「ニューヨーク・マガジン」に寄稿した記事"Who Is Reality Winner?"だが、そこにはリアリティの生い立ちから事件に至る軌跡が詳しく綴られている。
本作には、それを踏まえると、リアリティの孤独がより鮮明になるような発言が多々ある。
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