「移民」が拡張する日本の美術...ぺルー新紙幣の顔になった女性画家から、在日外国人「デカセギ美術」の可能性まで
ニューズウィーク日本版 / 2024年1月17日 11時10分
特に1945年からニューヨークの日本人芸術家および日系人収容所の芸術家の作品を展示する展覧会が東海岸の都市を巡回し、日系人の再転住を支援したことが詳細に紹介されている。
戦前・戦中の米国日系人だけではない。ブラジル日系美術家の20世紀初めから現在までの系譜をひも解いた岡野道子氏、ブラジルで熱く盛り上がる「マツリ」の様相を紹介した根川幸男氏、在日ブラジル人による「デカセギ文学」の萌芽と可能性を指摘したアンジェロ・イシ氏の論文もそれぞれ示唆に富み、考えさせられた。
兵庫県立美術館が所蔵するブラジル日系人の美術(リカルド・タケシ・赤川コレクション)や、サンパウロ出身で国際的に活躍する現代美術家、大岩オスカール氏の作品など、日本国内でもブラジル日系人の美術に接する機会はさまざまにあるが、それでもほんの一部に過ぎないのだろう。
冒頭のティルサ・ツチヤらペルー系など他国の日系人美術家にも、豊かな芸術の水脈は見出せるかもしれない。
◇
移民という視点で考えると、少子高齢化が進む日本では、労働力として受け入れた外国人とどう共生していくかという問題が横たわる。
互いの壁をどう乗り越えるのか、彼らが日本で感じている苦難にどう寄り添えるのか、政策的サポートだけでなく、芸術文化が果たす役割も大きいだろう。
デカセギ文学があるなら、日本で感じたあれこれを昇華させた「デカセギ美術」の可能性だってある。日系人、そしてこれから日本社会へ越境してくる人々も含めて、日本の美術史を大きな物語として編んでいくのも面白いのではないだろうか。
黒沢綾子(Ayako Kurosawa)
京都市生まれ。同志社大学法学部政治学科卒。1996年、産経新聞社入社。和歌山支局などを経て、20年以上にわたり東京本社文化部と「SANKEI EXPRESS」編集部でファッション、美術、建築、デザイン、出版界の取材を担当し、2023年退社。現在はフリーで執筆活動を行う。
『アステイオン』99号
特集:境界を往還する芸術家たち
公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
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