北朝鮮脱北の危険な道!『ビヨンド・ユートピア 脱北』が描く衝撃の旅
ニューズウィーク日本版 / 2024年1月11日 18時52分
彼女は当初、ヒョンソを中心とした構成を考え、撮影を進めていたが、韓国を訪問した際にキム・ソンウン牧師と出会ったことで方向性が変わる。キム牧師は脱北者を支援する「地下鉄道」の中心的なメンバーで、これまでに1000人もの脱北者を手助けしてきた。彼女は時間をかけてキム牧師の信頼を得て、脱北の試みを記録する機会を与えられた。
このキム牧師の存在は、本作の方向性と深く関わっている。たとえば、脱北した女性は、売春させられたり、農村の独身者に売られたりするが、ブローカーは、ロ一家には売買する価値がないと判断した。その場合は、キリスト教の団体に連絡し、脱北者と引き換えに金を要求する。ギャヴィンは、そんな一家の、特に祖母に関心を持つことになる。
また、ロ一家が脱北を余儀なくされた事情にも触れておくべきだろう。一家は、夫婦の妻の兄と姉、祖母の息子と娘が脱北したために、当局からマークされ、強制移住させられそうになり、無計画に川を渡ることになった。本作には、母親や妹を追いつめてしまったことで自責の念に駆られる兄も登場し、一家の脱北を手助けする。
ギャヴィンと撮影クルーは、キム牧師を追ってロ一家と合流するが、牧師はこれまでの活動ですでに中国警察からマークされているため、中国には入国できない。牧師はベトナムに向かい、中国との国境で一家と合流し、そこから行動をともにする。それまでの撮影は、現場にいる人間に頼るしかない。
脱北の旅:危険と連携の中で生まれる映像
本作の導入部で、キム牧師のもとにブローカーから、山中で立ち往生している一家がいるという一報が入ったときに印象的だったのは、その後すぐに、牧師に助けを求める一家の姿を収めた動画が送られてきたことだ。脱北者の取引や状況の確認には動画が利用されている。とすれば、脱北の現場には、目的は違うものの、すでに撮影という要素も含まれていると見ることができる。
先述した自責の念に駆られる兄は、中国に入り、ブローカーに導かれて北部から南下してくる一家と青島で合流し、行動をともにすると同時に撮影も引き継ぐ。キム牧師はそんな彼に撮影に関する指示も出し、連携を支える役割を果たしている。
ギャヴィンも、そんなふうにして得られた映像を単純に繋いでいるだけではない。脱北のプロセスには、先述したイ・ヒョンソのような脱北者/活動家やジャーナリストたちのインタビュー、記録映像やオリジナルのアニメーションまでもが挿入され、南北分断の歴史や北朝鮮の現実と一家の旅が結びつけられていく。
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