言葉の「呪術」性はどこから来たのか...育児=「見ている対象に同一化すること」から考える
ニューズウィーク日本版 / 2024年1月24日 15時5分
<ウクライナやパレスチナで戦争が起き、憎悪の波が世界中を襲う今だからこそ、愛に基づく越境を試みる人間の有り様を信じたい...>
萩原朔太郎が「ふらんすへ行きたしと思へども/ふらんすはあまりに遠し/せめては新しき背廣をきて/きままなる旅にいでてみん。」(「旅上」『純情小曲集』1925所収)と詠ってから百年近い歳月が流れている。
この時の経過は、渡仏を遥かに容易なものに、換言すれば「きままなる旅」の目的地としてフランスを選ぶことを可能にした。そのことは、長木誠司による『アステイオン』99号特集「境界を往還する芸術家たち」の巻頭論文「ヨーロッパで活動する日本人音楽家」に記された、海外で活躍する多くの日本音楽家の様子に端的に示されているだろう。
交通手段の発達そして日本経済の発展が、こうした越境を容易なものにした。しかし、科学技術や経済という下部構造の変動に由らずとも、人は、想像力により、何より言葉の力によって、自身がいる現実から飛翔し、異境の地へと赴くことができる。
上野誠+ピーター・J・マクミラン+張競による鼎談「境界を往還する万葉集」でマクミランや上野が指摘する『万葉集』の持つ呪術性こそ、言語によって人が現実から飛翔する力を指し示すものだと言えよう。
上野は『万葉集』における「見れば見ゆ(見たら見えた)」という型の国見歌は、現実の風景が歌に描かれたものと異なるもの、時にそれは正反対の景色であっても、歌に詠み込まれるとその情景が実現への過程を歩み始める、そういう力を持っていると言う。
歌は、言葉は、人を現実から、それがどんなに悲惨なものであっても、「美しい」世界へと舞い上がらせる力を帯びている。
テクノロジーや経済力といった「物理的」力に由らずとも、人には越境が可能であったとすれば、百年ほど前の朔太郎とて、「新しい背廣を着」ることで眼前の日本の景色をフランスのものへと転換し、越境を果たしていたとも言える。
ならば、こうした言葉の力、鼎談において張たちが語る言語の「呪術」性はどこからもたらされたのだろうか。
三浦雅士は、本特集で個人的には最も読み応えがあった論考「越境とは何か」において、「越境とはほんらいの自己という他者への越境であり、それこそ人類の特性」で、「人類が直立した瞬間は、そのまま越境の瞬間であった」と指摘する。
では、自己が他者であるとはいかなる事態なのか。三浦は、育児という行為に着目する。
この記事に関連するニュース
-
文章は映像よりも「上から目線(エラそう)」?...贅沢品になった「使えない知」延命のヒントとは
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月17日 11時9分
-
子離れできている…? 過保護に潜む落とし穴2つ
KOIGAKU / 2024年7月11日 18時43分
-
動物の赤ちゃんの顔「可愛さ」を感じる黄金比とは 赤ちゃんの「愛くるしい姿」は立派な生存戦略だ
東洋経済オンライン / 2024年7月7日 16時0分
-
街にいながら狩猟を追体験できる「罠ブラザーズ」より、年間通してジビエを美味しくいただく新プラン『アメイジング・罠ブラザーズ』が登場!
PR TIMES / 2024年7月5日 13時15分
-
「ママ友だから断りづらい…」公民館での“体験会”の正体は?保育園のママグループに忍び寄る怪しい影
女子SPA! / 2024年6月20日 15時45分
ランキング
-
1韓国でLINEユーザーが急増した理由 日本への反発?
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月17日 15時55分
-
2血まみれで逃げる患者…「一線超えた」ウクライナの小児病院医師、露のミサイル攻撃を非難
産経ニュース / 2024年7月17日 15時32分
-
3ウクライナ侵略開始後、動員や弾圧避けるためロシアから65万人流出か…露独立系メディア集計
読売新聞 / 2024年7月17日 18時23分
-
4フィリピンで日本人4人拘束 日本から逮捕状 カンボジア拠点の詐欺グループか
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年7月17日 11時23分
-
5オマーンでシーア派モスク襲撃6人死亡、「イスラム国」が犯行声明
ロイター / 2024年7月17日 9時45分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)