日本が月面着陸に初成功、世界で5カ国目の快挙も「60点」評価のワケ...太陽電池が機能しないことによるミッションへの影響とは?
ニューズウィーク日本版 / 2024年1月20日 17時25分
2)月の起源の解明への打撃
太陽電池の機能喪失による影響は少ないと思われるピンポイント着陸の判定に対して、着陸後に行う予定だった「マルチバンド分光カメラによるカンラン岩の観測」は大きな打撃を受けそうです。
月がどうやってできたのか、なぜ地球は「大きすぎる衛星」を持っているのかについては、今もなお謎に包まれています。
月の起源には諸説あり、約46億年前の地球ができてまもなくの時代に、地球に火星ほどの大きさを持つ原始惑星「テイア」が衝突し、地球軌道に飛び散ったテイアの破片と地球マントルの破片が合体して月になったとする「ジャイアント・インパクト(巨大衝突)説」が最有力です。昨年11月には、米カリフォルニア工科大などの研究チームが地球内部にテイアの残骸が残っているとする説を英科学誌「ネイチャー」に発表し、話題になりました。
もっとも、まったく別の場所で作られた小天体が飛来して、たまたま地球の重力に捕まったとする「捕獲説(飛来説、他人説とも呼ばれる)」を主張する研究者もいます。
地球上の物質やアポロ計画で持ち帰られた「月の石」でだけでは、これ以上議論することは難しいため、月の表面で隕石の衝突や風化の影響を受けていない「月のマントル由来の石(カンラン石)」の研究が待ち望まれていました。
今回、SLIMにはマルチバンド分光カメラが搭載されており、月の主要鉱物の輝石や斜長石とカンラン石を識別しながら、着陸点周辺の岩石とレゴリス(月表面の土壌)を観測する予定でした。着陸地点は、JAXAの月観測衛星「かぐや」がかつて全球的にカンラン石の分布を調べたデータなどを使い、カンラン石を豊富に含む岩石の観測にも適した場所が選ばれました。
岩石に占めるカンラン石の比率や化学組成(鉄とマグネシウムの比)が分かれば、月のマントルの組成が推定できます。それと地球のマントルを比較したり、巨大衝突のシミュレーションをしたりすれば、月の起源の謎に迫れます。さらに太陽系形成論まで発展できる可能性もあります。
本来、マルチバンド分光カメラは着陸後数日の間、カメラの視野よりも広い月面領域を観測するためのミラーを2軸で回転するための機構、高い空間分解能を確保するためのフォーカス機構、多バンド観測を行うためのバントパスフィルタの切り替え機構などを駆使しながら観測に最適な試料を探し、撮影する予定でした。
しかし、バッテリーが数時間分しか残されていなかったため、電力はSLIM内部に蓄積された着陸データの送信に最優先で使われました。マルチバンド分光カメラの撮影は、たまたま視野に入ったものに限られたり、節電のために回転機能は使わなかったりしたようです。
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