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日本人の道徳的価値観と分断の萌芽

ニューズウィーク日本版 / 2024年2月7日 17時0分

(写真はイメージです) Ink Drop-Shutterstock

<大規模世論調査「スマートニュース・メディア価値観全国調査」が明らかにした日本の「分断」。連載第4弾では、日本人の道徳的な傾向は分断に結びついているのか、東京工業大学環境・社会理工学院准教授・笹原和俊氏が解説する>

米国における分断を体感したのは、フェイクニュースが吹き荒れる中、トランプ大統領が誕生した2016年だった。その年、米国で研究をしていた私が目にしたのは、異なる政治的意見を持つ人々が敵意をむき出しにして対立する様だった。

社会心理学者の社会心理学者のジョナサン・ハイトは「道徳的価値観」という観点から、このような分断に対する1つの説明を与えた。日本でも分断が深刻化していると報じられているが、その背景に米国と同様の理由があるのか、あるいは日本特有の道徳的価値観が異なる複雑性を生んでいるのかはまだ明らかになってはいない。そこで本稿では、「スマートニュース・メディア価値観全国調査(SmartNews Media, Politics, and Public Opinion Survey)」(以下、SMPP調査)から見えてきた特徴について紹介する(本分析は東京大学の松尾朗子氏と共同で行なっている)。

なぜ社会は右と左にわかれるのか

ハイトが提唱する道徳基盤理論は、分断を理解するための有効な枠組みを提供する。この理論は、人々の道徳的判断は、擁護(Harm)、公正(Fairness)、忠誠(Ingroup)、権威(Authority)、神聖(Purity)という5つの道徳基盤に根ざしているとする。「道徳基盤尺度(MFQ)」を用いた調査(Graham et al. 2009)によると、リベラル派は擁護(他者への配慮)と公平(平等と正義)を強調するのに対し、保守派は忠誠(内集団への帰属)、権威(社会的階層の尊重)、神聖(純粋さへの尊敬)も重視する傾向があることがわかった(図1左)。これは、道徳的価値観の違いが、政策や社会的問題に対する見解の相違を引き起こし、分断を生み出す可能性を示唆している。

SMPP調査では、日本語のMFQ短縮版に基づいて回答を集め、イデオロギー軸との関連性を分析した(図1右)(SMPP調査におけるイデオロギーの分析については、本シリーズのスマートニュース メディア研究所長 山脇岳志氏と早稲田大学社会科学総合学術院教授 遠藤晶久氏の記事も参照) 。その結果、日本においてもリベラル派は擁護と公平を、保守派はその他の基盤も重視するという傾向が認められたが、米国と比較してその差は顕著ではなかった。特に、擁護と公平はイデオロギーに依存せず横ばいで、神聖は、忠誠や権威とは異なる傾向であることがわかる。

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