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ドラマが描いた「英国史上最大の冤罪事件」、アートの力が現実を動かした例は過去にも

ニューズウィーク日本版 / 2024年2月1日 17時31分

『ミスター・ベイツ対ポストオフィス』の一場面 REX/AFLO

<イギリスで放送されたドキュメンタリードラマが郵便局スキャンダルへの関心を一気に高め、社会を動かした。実話ベースのドラマが冤罪を覆すのはイギリスの一種の伝統だ>

いまイギリスは「英史上最大の冤罪事件」に揺れている。

国有企業のポストオフィス(PO)の下にある各地の郵便局で、実際に窓口で集めた現金が会計システム上の残高記録より少なくなる事例が多発。

2000~14年に700人以上の郵便局長が横領罪で訴追された。

だが実際には、郵便局に導入された富士通の会計システム「ホライゾン」に重大な欠陥があった。

システムの不具合は早くから報告されており、大々的とは言えないまでもメディアもこのスキャンダルを報道していた。

しかし事件が大きな注目を集めたのは、今年になってからだ。

きっかけは、民放ITVで元日から放送された全4話のドラマ『ミスター・ベイツ対ポストオフィス』だった。

実話を基に、アラン・ベイツら700人を超える元郵便局長の法廷闘争を描いた作品だ。

これまで920万人以上がこの作品を視聴。

国民の怒りの声は高まり、政府は冤罪の犠牲になった人々を救済するための司法手続きを加速させることとなった。

12~19年にPOのCEOを務めたポーラ・ベネルズは、国から授与された勲章を返上。

会計システムを納入した富士通は、かなり早い時点で欠陥を把握していた可能性を認め、被害者への補償を行う意向を示した。

『ミスター・ベイツ対ポストオフィス』より REX/AFLO

社会を大きく動かしたのが、真面目な調査報道でも進行中の公的な調査でもなく、テレビドラマだったことに驚く人がいるかもしれない。

だが、ドラマが世論を動かした例は初めてではない。

「ドキュドラマ(ドキュメンタリードラマ)」が変化のきっかけをつくるのは、イギリスでは一種の伝統となっている。

1990年の『テロリストを追え!/バーミンガム爆破事件の謎』は、74年に起きた爆破テロ事件をめぐる司法判断に大きな疑問を投げかけ、冤罪で終身刑を言い渡された6人のアイルランド人男性が、17年にわたる服役を経て釈放されるきっかけとなった。

ジミー・マクガバンが脚本を手がけた『ヒルズバラ』(96年)は、観客96人が圧死した英サッカー史上最悪の事故「ヒルズバラの悲劇」に対する公的調査への機運を高めた。

BBCの17年のドラマ『3人の少女』は、性的グルーミング(わいせつ目的で若年者を手なずける行為)や児童虐待への関心を高め、政府が法改正に動く後押しをした。

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