ヘッジファンドと個人投資家の緊迫の攻防! 映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』
ニューズウィーク日本版 / 2024年2月2日 16時27分
そんな冒頭からさかのぼって描かれる騒動の前半には、空売り勢に対抗する個人投資家たちが次々に登場してくる。
その中心になるのは、マサチューセッツ州在住で、保険会社の金融アナリストとして働く平凡な男キース・ギル、推定純資産9万7427ドル。彼にはもうひとつの顔があり、ネット掲示板で、赤いハチマキに猫のTシャツがトレードマークの"ローリング・キティ"を名乗り、フォロワー向けに株式投資の動画を発信している。
彼は、愛着を持つゲームストップ社が空売りを仕掛けられていることに気づき、5万ドルをつぎ込む。そして、ネット掲示板で自身の持ち株を公開し、ゲームストップ株が著しく過小評価されていると訴える。するとその主張に共感したフォロワーや若者たちがゲームストップ株を買い始め、株価が徐々に上昇し始める。
キースを支持する個人投資家として登場するのは、ペンシルベニア州の看護師ジェニー・キャンベル、推定純資産4万5644ドル、ミシガン州にあるゲームストップの店舗で働くマルコス・ガルシア、推定純資産136ドル、テキサス大学オースティン校に通い、ともに借金を抱えているらしい同性カップルのハーモニー・ウィリアムズとリリ・パリゾー、推定純資産−18万6541ドル、−14万5182ドルといった人々だ。
コロナ禍が映し出す市場の変貌
この前半部からは、株式市場における攻防が社会現象にまで発展する背景が見えてくる。
ひとつはコロナ禍だ。それが様々なかたちで強調されている。本作の冒頭の説明で、ゲイブが私事に気をとられてと書いたが、彼は自宅の隣に建つ空き家になった邸宅を取り壊して、家族用のテニスコートを作ろうとしていたが、なかなか工事が始まらないために苛立っている。そのため、業者と思しき電話の相手に、「これじゃ完成前にコロナ禍が終わるぞ」と不満をぶつける。
キースは、コロナ禍のなかで姉を亡くしたことを動画で告白する。看護師のジェニーが疲弊していることは容易に察せられる。マルコスは店長から「あごマスク」を注意される。
そしてもうひとつ見逃せないのが、前半の終わり近くに、最後のピースを埋めるように登場してくる人物たち。人気の株取引アプリを提供するスマホ証券ロビンフッドのCEO、ブラッド・テネフとバイジュ・バット、推定純資産10億ドルだ。
ふたりは、インタビュー取材を受ける立場で登場する。ロビンフッドは、1ドルから取引ができ、手数料が無料で、スマホさえあればゲーム感覚で気軽に投資できるため、コロナ禍に入って急成長を遂げた。
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