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事実認識が欠落したまま過熱するアメリカの移民論議

ニューズウィーク日本版 / 2024年2月28日 15時45分

具体的な手口としては、貨物のコンテナに大勢の人間を押し込めて施錠し、何らかの方法で入国審査を突破してくるとか、あるいは船舶を用いるなど、とにかく犯罪組織が介在しています。スネークヘッドとか、コヨーテなどというグループが関与していると言われていますが、実態は不明な点が多いのです。

現在、アメリカの治安を悪化させているのは、前者ではなく後者です。ですが、後者は巧妙な手口を使っているために映像化は不可能です。ですから、前者の移民、具体的には正当な国際条約と、正当な合衆国の国内法に従って移民申請、もっと言えば難民申請をしているグループの映像を見せて「こんなに人が溢れている」とか「犯罪者や麻薬が流入している」などというプロパガンダが展開されているのです。ですが、そのストーリーのほぼ全体は事実と異なっています。

2番目の問題は、難民申請者が増加したことへの対策です。まず、2020年頃から増えていたホンジュラスでの治安悪化から逃れて、グアテマラ、メキシコ経由でアメリカに難民申請する母子のグループというのは、ここへ来て激減しています。これは、2022年に当選、就任したシオマラ・カストロ大統領(女性)がギャングの取り締まりに踏み切ったからです。彼女は当初、人権を重視した国内法の規定により十分な成果を上げることができませんでしたが、当時この問題の陣頭指揮を取っていたカマラ・ハリス副大統領が乗り込んでいって、かつて辣腕検事であった際のノウハウを伝授、その対策で効果があったと言われています。

反対に、ここへ来ての難民申請者はベネズエラ人が圧倒的です。ベネズエラは、独裁者のウゴ・チャベス大統領が2013年に死去して以来、政権が安定せず、これに原油価格の下落が重なることで経済と治安が崩壊してしまいました。そのために、国を捨てる人が多く、現在、アメリカの南部国境に殺到しているのはこのグループです。

南北アメリカの中で最も反米的に振る舞っているベネズエラに対して、アメリカは経済制裁を続けています。ということは、その国を逃れて難民化している人は、アメリカとしては見捨てるわけには行きません。ベネズエラへの非難は、民主党政権だけでなく、トランプ政権も激しくやっていましたから、責任逃れはできないはずです。反対に、どうしてもベネズエラからの難民流入を減らしたいのであれば、経済制裁を緩和するなど現政権と和解する手段を検討する必要があります。

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