サンリオファンが愛する『いちご新聞』はなぜ誕生したのか...「いちごの王さま」の「ファンシーな教養主義」
ニューズウィーク日本版 / 2024年3月15日 9時25分
<1960年代から1980年代までのサンリオ出版の歴史、そして「いちごの王さま」と<文学>による教養主義について>
キティちゃんなど、いまや世界を魅了するかわいいキャラクター事業のかたわら、数々の出版物を世に送り出してきたサンリオ。
1960年代から1980年代までのサンリオ出版の精神が今も息づく『いちご新聞』の歴史と、その背景について。『サンリオ出版大全:教養・メルヘン・SF文庫』(慶應義塾大学出版会)より第9章を抜粋する。
◇ ◇ ◇
はじめに
『詩とメルヘン』をはじめ、サンリオが発行した定期刊行物は時を追うごとに徐々に休刊されていくことになるが、『詩とメルヘン』創刊の2年後の1975年4月に創刊された『いちご新聞』は現在まで刊行が続いている。
現在の『いちご新聞』はサンリオのキャラクターと商品の紹介が紙面の大半を占め、サンリオファンに愛読されている。
創刊当初の『いちご新聞』はもちろんサンリオのキャラクターに関する記事が多く記載されていたが、〈文学〉に関わる言及も数多くなされていた。
つまり初期の『いちご新聞』はサンリオが持つ「ファンシー」さに、〈文学〉による人間形成を謳(うた)う「教養主義」的な性質が合わさるような形で刊行されていた。現在、サンリオのキャラクターとそのファンをつなぐ役割を『いちご新聞』は担っている。
しかしその出発にはサンリオのキャラクターを紹介することに留まらない、教養主義的な側面によって支えられていたことを本章では指摘したい。
創刊当初の『いちご新聞』を見ることでサンリオ文化の一面には教養主義があったことを明らかにするというのが本章のねらいである。
読書を中心とした知的営為によって、豊かな人間性を自らの中に育むことを目的とする「教養主義」と『いちご新聞』との関わりについては書籍の中で詳述するとして、まずは「いちごの王さまのメッセージ」の変遷から順を追ってみよう。
「いちごの王さまのメッセージ」
まず『いちご新聞』と〈文学〉の関係を考える上で、「いちごの王さま」の存在に触れておかなければならないだろう。社長(当時)・辻信太郎の分身的存在として、「いちごの王さま」は『いちご新聞』とともに形成された。
また現在も『いちご新聞』の〈顔〉としてメッセージを発している。『いちご新聞』の中で、この「いちごの王さま」のメッセージにこそ、教養主義が色濃く表れる。そこでまず『いちご新聞』における「いちごの王さま」とはいかなる存在なのかを見ていきたい。
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