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30秒以内に検知...受精卵で父親由来のミトコンドリアが「消される」仕組みが明らかに

ニューズウィーク日本版 / 2024年3月8日 21時30分

ミトコンドリア・イブ説は、瀬名秀明さんのSF小説『パラサイト・イヴ』(1995年、角川書店)によって、一般にも広く知れ渡りました。細菌共生説とミトコンドリア・イブ説に基づいて、架空の「ミトコンドリアの反乱」を描いた物語は100万部を突破し、映画化やゲーム化もされました。

ミトコンドリアがなぜ母親由来の遺伝情報のみを持つのかについては、かつては受精時に精子の頭部だけが卵子に入り、ミトコンドリアを含む中片部や尾部は入らないからであると説明されてきました。

けれど、これはチャイニーズハムスターなどの一部の生物に見られる特殊なケースで、90年代後半には、多くの生物で精子のミトコンドリアが受精卵に侵入することが確認されました。

では、どうやって父親由来のミトコンドリアDNAは「消える」のでしょうか。後の研究で、マウスやウシなどの哺乳類で、発生の初期段階で父親のミトコンドリアDNAが徐々になくなっていく観察が報告されましたが、具体的な仕組みはなかなか分かりませんでした。

今回の研究論文の責任筆者である佐藤美由紀教授は、10年以上前からオートファジーに注目して、父性ミトコンドリアDNAの消失の説明を試みています。

オートファジーとは、ほとんどの真核生物が持つ、細胞内の不要物を分解する仕組みです。排除したい細胞内の一部(タンパク質や細胞内小器官)を膜で取り囲み、消化して取り除きます。大隅良典・東大特別栄誉教授は2016年、この仕組みの解明によりノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

生物はオートファジーによって、細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、細胞質内に侵入した病原体を除去したりしています。このような生体の恒常性維持に関与しているだけでなく、アポトーシス(プログラムされた細胞死)や細胞のがん化抑制にも寄与していることが最近の研究で明らかになってきています。

生きた線虫の体内を動画撮影した結果

佐藤教授の研究チームは11年、土壌に生息する線虫C. elegans(Caenorhabditis elegans)を用いて、受精卵において精子由来の父性ミトコンドリアが、オートファジーによって選択的に食べられて細胞内から除去されることを明らかにしました。チームはこの現象を「アロファジー(allophagy:非自己[allogeneic]オルガネラのオートファジー)」と名付けました。研究成果は科学学術誌「Science」に掲載されました。

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