1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

『12日の殺人』、未解決事件の深層に挑みフランス映画界を震撼させる

ニューズウィーク日本版 / 2024年3月14日 19時30分

マルソーは、そんなヨアンをモルモットのようだと表現するが、そこに象徴的な意味を読み取ることもできるだろう。事件が起こった町モーリエンヌは、山々に囲まれた閉ざされた空間であり、自転車競技場のトラックのイメージに重なる。事件にとらわれたヨアンは、閉ざされた空間を虚しく回りつづけているともいえる。

そんな印象を持つのは、単にイメージが重なるからだけでなく、マルソーの行動とも無関係ではないように思えるからだ。捜査線上には、さらに4人目、5人目の人物が浮かび、ギャビのときですら危うかったマルソーは、暴力的な容疑者に感情を抑えられず、暴走して一線を越えてしまう。

その後、町から署に戻る車中でヨアンと激しい口論になったマルソーは、車を降り、一直線に山の方角に向かい、姿を消す。その行動は、閉ざされた輪を突き抜け、去ることを意味しているように見える。

結末への道再捜査が照らし出す未来と和解の可能性

物語はそこで区切りがつけられるが、それにつづく場面も計算されているように思える。消えた男に対して、ひとりの女性が現れ、裁判所に入っていく。彼女は判事で、執務室におけるヨアンとのやりとりで、それが3年後であることがわかる。

判事は事件の再捜査を促す。いまだ事件に取り憑かれているヨアンは、「犯人が見つからないのは、すべての男が犯人だからです。男と女の間にある溝です」と語る。だが、次第に彼女の言葉に動かされ、再捜査に乗り出す。

判事の協力を仰ぎ、新たに女性捜査官も加わった捜査は、男だけの捜査とは明らかに空気が違う。特に印象深いのは、ヨアンが、彼にリンドウの花の写真を送ってきたマルソーのことを、女性捜査官に「友達」と説明することだ。再捜査で変化する彼は、もはや閉ざされた空間を虚しく周回する人間ではなくなっている。

『12日の殺人』2024年3月15日(金)公開
(C)2022 - Haut et Court - Versus Production - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

  




この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください