同質性を重視してきた「ものづくりの現場」に、多様性の意識を根付かせた「DEI推進室」の挑戦
ニューズウィーク日本版 / 2024年3月28日 17時0分
金太郎あめをヒントに「同質性」の象徴としての金太郎と、「異質性」の象徴としての宇宙人をキャラクターに
男性社員の育休取得などにも変化が
ある工場では女性のリーダーが登場したことで、重量物取り扱い対応のための補助具が導入されたが、その結果、腰痛に不安を感じていたベテラン男性社員からも安堵の声が上がった。「宇宙人」の登場が、「重くても我慢するしかない」という今までの仕事を見直す機会になったのだ。
栗山によれば、「私が天岩戸の前で踊っていると一緒に踊るメンバーが増え、その楽しそうな雰囲気にマジョリティー側も少し天岩戸を開けてのぞいてくるようになった」という。そのタイミングで栗山は間髪を入れず、「マジョリティーの特権を可視化する」というセミナーへ部門長たちを全員参加で送り込んだ。
動画コンテンツなど、身近で分かりやすい伝え方を工夫している
「部門長たちは、自身が特権を持つ側であること、組織の環境を変えやすい立場にいることを理解する必要がある。組織には個人の能力や努力だけでは解決しない『構造・仕組みの課題』がある。それを自覚して職場の不公平を是正していこう!」と意識改革に取り組み出したのだ。
こうした改革により、社内の空気は一変しつつある。現場で「DEI的にはどう?」という会話が飛び交うようになり、先進的な取り組みを学ぶための他社訪問、勉強会の開催など、社員の自主的な動きがいくつも見られる。
また、成果は男性の育児休業取得などの数字にも表れている。全社の取得率は70%、平均取得日数は26日。今も取得日数は伸びている。
従来の育休取得率の低さの背景にも性別による役割分担意識があり、特に男性には収入減の不安と取りにくい雰囲気が重くのしかかっていた。そこで人事とDEI推進室が連携し、30日間の有給制度を導入。また、育休で男性社員が得た学びを共有してほしいとの願いから、部署で関連する懇親会を開く際、費用を会社が補助している。
「育休の経験は本人だけでなく職場の学びとなる。チームの1人が欠けたときの仕事の回し方を工夫したり、自分が上司になったときに部下の相談に乗ったりもできる。もちろん『取得は各家庭の自由』だが、会社全体のことを考え、一度は経験してほしいとのメッセージを出し続けている」
創業者・松下幸之助の理念に立ち返る
24年度の目標はさらに現場を巻き込むことだと、栗山は言う。DEIは努力目標ではなく、事業変革のためにも、社員のためにも「絶対に」不可欠なこと。仕組みや構造の見直しを図るため、過渡期の今は「天岩戸を破壊するくらいのパワー系アプローチがDEIにも必要」だと栗山は意気込む。
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