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アイスランドがデンマークの統治下に置かれていた時代の物語『ゴッドランド/GODLAND』

ニューズウィーク日本版 / 2024年3月28日 17時9分

野心ゆえにあえて遠回りになる陸路を選んだルーカスは、試練を乗り越えることもなく、異国の現実に激しく打ちのめされていく。

そして、目的地の村を舞台にした後半にも、一瞬だけ神話的な物語を予感させるような、興味深いエピソードがある。

瀕死の状態で農夫カールの家に運び込まれたルーカスが目覚めたとき、ラグナルと労働者たちはすでに教会の建設を進めている。彼には旅の記憶がほとんどないらしく、自身の居場所を見出せない状態に陥っている。

注目のエピソードは、地元の若い男女の結婚式から始まる。それは牧師が役割を果たす機会のはずだが、ルーカスは教会が完成していないことを理由に関わることを拒み、カールを呆れさせる。

若い男女は、骨組みだけの教会で、牧師抜きで式を挙げ、その後、ダンスが始まる。ルーカスは、カールの許しを得てアンナと踊る。その頃、教会の前では、アイスランドのレスリングであるグリマが始まっている。

カールは娘たちに急き立てられるようにグリマの挑戦者となり、相手を倒して勝利を収める。すると今度はカールが、ルーカスを挑戦者に指名する。ここで見逃せないのは、その気がないルーカスにアンナが、「父はあなたと踊りたいのよ」といって説得することだ。

アイスランドとデンマークの複雑な関係を炙り出す

彼女の言葉は、このダンスからグリマへの流れが、ルーカスが集団に加入するためのイニシエーションになることを示唆している。ルーカスを挑戦者に迎えたカールの対応もそれを裏づける。彼はルーカスにグリマを教えつつ、勝ちを譲ることで、ルーカスとラグナルが対戦する機会を演出する。

冒頭で司教はルーカスに、「現地の人々と環境に適応するように努めろ」とも語っていたが、ルーカスがグリマでラグナルと対戦すれば、アイスランド人の集団に帰属することになるだろう。だが、彼らの対戦を見つめるアンナたちの顔が曇っていくように、それはただの主導権争いにしかならない。

しかし、こうした展開を通してルーカスとラグナルの間の緊張が高まっていくことで見えてくるものがある。彼らは同じような恐れや葛藤を抱え、立場が違えば深く共感できたかもしれないが、支配/被支配の関係によって引き裂かれていく。

パルマソンは、脱神話化ともいえる独自の視点によって、アイスランドとデンマークの複雑な関係を炙り出すと同時に、自然のなかの極めて小さな存在としての人間の姿を浮き彫りにしてもいる。

『ゴッドランド/GODLAND』3月30日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開(C)2023 ASSEMBLE DIGITAL LTD. ALL RIGHTS RESERVED.




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