治療用ヘッドセットも実用化間近...「40ヘルツの光や音」がアルツハイマー病の進行を遅らせる可能性と、そのメカニズム
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月1日 21時50分
症例は1906年にドイツの精神科医アロイス・アルツハイマーによって初めて報告されましたが、治療薬の歴史は浅く、世界初のアルツハイマー治療薬「ドネペジル」は1996年にアメリカ、99年に日本で承認されました。その後、日本では2011年にガランタミン、リバスチグミン、メマンチンが承認され、長らく「4剤時代」が続きました。
ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンは「コリンエステラーゼ阻害薬」で、神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を抑えて脳内の神経伝達物質を増やし、記憶障害などの進行を遅らせる効果が期待されます。一方、メマンチンはアルツハイマー病に関与しているとされるグルタミン酸神経系の機能異常を抑制します。
ただし、これらの治療薬は、病気の直接的な原因であるアミロイドβやリン酸化タウの増殖を抑えるものではないので、効果は限られていました。
アルツハイマー病の原因であるアミロイドβの蓄積の抑制に直接効くとされる薬は、21年に初めてアメリカで承認されます。「アデュカヌマブ」という名称のこの薬は、アミロイドβに結合する特徴を持ち、除去を促進します。
ただし効果に疑問の声も上がっており、日本では審議が続いているものの、後発で同様の効果を持つ「レカヌマブ」が先に承認されました。両者には、アミロイドβが凝集される過程の中間段階の物質に結合するのがレカヌマブ、より最終段階に近い物質に結合するのがアデュカヌマブという違いがあります。
脳内のリンパ系の流れがよくなり、アミロイドβの蓄積を抑制
今回、蔡博士らの研究チームは、遺伝子改変してアミロイドβを蓄積しやすくしたマウスに40ヘルツ周期の光や音の刺激を与えると、脳内のリンパ系の流れがよくなるためアミロイドβの蓄積が抑制されるというメカニズムを解明しました。
アミロイドβは、健康な人の脳内でも作成され、通常は短時間で分解され排出されます。しかし、アミロイドβ同士がくっついて凝集すると脳内に蓄積され、神経細胞の損傷や脳の萎縮に関与すると考えられています。
もともと蔡博士らは、16年に「アルツハイマー病のモデルマウスに40ヘルツ周期の光(1秒間に40回の周期で点滅する光)を1日1時間当てると、視覚野でガンマ波が発生して、アミロイドβが著しく減少する」ことを発見し、「Nature」に発表しました。様々な周期の光でも試しましたが、他の周期やランダムな光の点滅では脳のアミロイドβの蓄積量への影響は見られませんでした。
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