20世紀を代表する楽曲「ラプソディー・イン・ブルー」は黒人音楽の盗用なのか
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月16日 17時30分
やっつけ仕事だったにもかかわらず、「ラプソディー・イン・ブルー」はレコードも楽譜も売れに売れた。
だが成功が大きければ批判の的にもなりやすくなる。よく聞かれるのが「ガーシュウィンは黒人音楽を盗用した」という批判だ。
そうした見方を口にするのは、21世紀の音楽史の研究者たちだけではない。100年前でも、不快に感じた黒人アーティストたちはいた。だが彼らはそれを言葉ではなく、自分たちの音楽で表現した。
29年、ブルース歌手のベッシー・スミスは短編映画『セントルイス・ブルース』に主演した。これは作曲家W・C・ハンディの同じタイトルの曲をテーマにした作品で、出演者は全員黒人。バックにはもちろんこの曲が流れるのだが、1つだけ例外があった。
スミスが演じるベッシーは、ギャンブラーのジミーを愛するが報われない。最後の場面で2人は「セントルイス・ブルース」が流れるなか、ダンスフロアで抱擁を交わす。
だがジミーはベッシーからこっそりカネをくすねると、彼女を冷たく突き飛ばす。彼が盗んだ札を見せびらかしたところで「ラプソディー・イン・ブルー」の冒頭のクラリネットのグリッサンドが流れるのだ。20秒ほどの短い時間だが、その間にジミーはお辞儀をして帽子を軽く持ち上げ、得意顔でクラブを後にする。
ここにこの曲を持ってきた意味は明らかだろう。ジミーがベッシーからカネをくすねたように、ガーシュウィンはジャズを黒人社会から盗んだと言いたいのだ。
万華鏡のレンズの正体は
ガーシュウィンはかつて、「ラプソディー・イン・ブルー」は「アメリカ音楽の万華鏡であり、アメリカの大きなるつぼ」だと述べた。だが「るつぼ」という比喩は、移民たちに対し自らの文化活動や文化的アイデンティティーを捨てて多数派に同化するよう求めることと同義だ。
それはまた、100年前の「音楽の実験」でホワイトマンが意図したものでもあった。彼は「ジャズから淑女をつくり出す」ことを目指すと言っていたのだから。
つまり彼は当時人気だったジャズ音楽をクラシック音楽(白人による白人のための高尚な音楽)に取り込もうとした。野獣たるジャズが持つ固有の美しさを抽出し、白人の耳に聞きやすいよう加工しようとしたわけだ。
高尚な音楽は、低俗とされる音楽からリズムやハーモニーといった音楽的要素を借用......というより盗用した。この融合を通し、低俗な音楽は多少なりとも「格上げ」されたが、そのままの姿で頂点に達することは決してない。
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