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「原爆の父」オッペンハイマーの伝記映画が、現代のアメリカに突き付ける原爆の記憶と核の現実

ニューズウィーク日本版 / 2024年4月22日 17時20分

年長の観客は男性のほうが多く、若い世代より戦争について以前から知っていたかもしれない。そんな彼らにとっても、ロバート・オッペンハイマーとマンハッタン計画(米政府の原爆開発計画)の物語は新鮮で、心をつかまれた。

それはどのような物語なのか。その物語は歴史と、そしてアメリカの原爆の記憶と、どのように重なるのだろうか。

映画『オッペンハイマー』のシーンから、タトロックと恋仲に ©UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

映画は、オッペンハイマーの物語と原爆の物語の2つを語る。複雑なストーリーテリングに時々頭が混乱するが、オッペンハイマーの生涯を3つに分けて描いている。

第1のパートでは、オッペンハイマーは若い科学者だ。人付き合いが苦手だが優秀で、量子物理学にのめり込んでいる(ベッドに入っても量子物理学の夢を見る)。

カリフォルニア大学バークレー校で理論物理学研究で名高いグループの礎を築き、左翼的な思想を持ち、共産主義者の友人がいて、詩とサンスクリット語をたしなみ、マティーニを作り、恋愛をする。

核戦争の結果に「無知」だった

第2のパートは、ニューメキシコ州ロスアラモスを拠点に原爆の製造と実験をめぐる科学的時間との闘いがドラマチックに繰り広げられる。

マンハッタン計画については「3年間、4000人、20億ドル」と描写されたが、実際には30カ所で10万人以上が関わり、国民にも連邦議会のほとんどにも伏せられたまま22億ドルがつぎ込まれた。

クライマックスは1945年7月のトリニティ実験だ。世界初の原子爆弾(愛称「ガジェット」)がニューメキシコ州の砂漠の上空で爆発に成功したのは、科学的勝利であると同時に恐るべき瞬間でもあった。

オッペンハイマーたち研究者は後に、新しい世界の悪魔的な始まりだったと語っている。

映画『オッペンハイマー』のシーン、ロスアラモスにて ©UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

オッペンハイマーの科学的勝利は政治的災厄に変わり、原爆が引き起こした結果が、映画の第3のパートと彼の残りの人生を占めることになる。

国民的な名声を得たオッペンハイマーは水素爆弾の開発と軍拡競争に反対し、50年代の反共産主義の熱狂の渦中で、水爆の擁護者だった旧敵(ルイス・ストローズ)に引きずり降ろされる。

偏向した聴聞会を経て、オッペンハイマーはセキュリティークリアランス(機密情報にアクセスできる資格)を剝奪された(2022年に米政府はようやく資格を回復させた)。

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