「原爆の父」オッペンハイマーの伝記映画が、現代のアメリカに突き付ける原爆の記憶と核の現実
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月22日 17時20分
映画ではオッペンハイマーの視点はカラーで、59年の上院公聴会で政府の職を追われたストローズの視点は白黒で描かれる。
オッペンハイマーの人生については、マーティン・J・シャーウィンとカイ・バードによる傑作の伝記『アメリカン・プロメテウス』(邦訳『オッペンハイマー』ハヤカワ文庫)に基づいている。
映画『オッペンハイマー』、公聴会でのストローズ ©UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
ちなみに、ハリー・トルーマン米大統領(当時)はオッペンハイマーを実際に「科学者の泣き虫」と呼んだが、映画で描かれているような状況とは違った。
映画『オッペンハイマー』、グローブスとオッペンハイマー ©UNIVERSAL PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
もう1つの物語──原子爆弾の伝記映画──は、実際は映画が示唆する以上に複雑だった。こちらの主役である科学者たちは、原爆を製造するための知的および技術的な専門知識を提供した。
ただし、当時は戦時中であり、マンハッタン計画の責任者だったレズリー・グローブス将軍ら軍部の目的はただ一つ、実用可能な最新技術である原爆で戦争に勝つことだった。
そして、ワシントンの政治家たちもまた、日本の降伏の先にある戦後の原爆の使用も見据えていた。ヘンリー・スティムソン陸軍長官の言葉を借りれば、ソ連に対する外交では原爆が「切り札」だ。
映画では、セキュリティーのために内部のコミュニケーションを制限する科学的任務の「区分化」に何回も触れている。
しかし、現実にはそれよりはるかに大規模で重大な「区分化」があった。科学者と軍部と政治家がそれぞれ自分の領域で活動し、彼らのほぼ全員が、核戦争が人類にもたらす恐ろしい結果について無知だった。
関係者がサングラスをかけてトリニティ実験の爆発を見守る場面は象徴的だ──まるで核爆発がもたらす危険は、まぶしい光だけであるかのように。
広島に投下された原爆の写真をマンハッタン計画関係者に見せるオッペンハイマー(1940年代) BETTMANN/GETTY IMAGES
アメリカ人の「原爆の記憶」
映画の中でオッペンハイマーは、広島と長崎への原爆投下後、道徳的な懸念にさいなまれ、核兵器の国際管理を支持するようになったと描かれている。
だが実際には、45年のオッペンハイマーの態度は相反していた。核爆弾を「悪事」だと語ったときもあれば、「なさねばならなかった」と語ったときもあった。
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