19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』
ニューズウィーク日本版 / 2024年4月25日 18時25分
エドガルドが誘拐された翌年の1859年、(映画では触れられないが)駐留していたオーストリア軍が撤退し、教皇政府に対して市民が蜂起し、ボローニャが解放され、教皇は地上の王国の大半を失う。
誘拐事件への教皇の対応が、この蜂起に大きな影響を及ぼしたことは間違いないだろうが、エドガルドの父親モモロの視点から見ると、そこには皮肉がある。
モモロにとっては、すべてが息子を取り戻すための行動だったが、結果としてそれが教皇をエドガルドに近づけることになったともとれる。孤立する教皇は、エドガルドに慰めを見出し、エドガルドも教会に愛着を持ち、教皇を父親と見るようになっていった。
大きく動いた歴史が異なる視点から見直される
そしてもうひとつ見逃せないのが、エドガルドの母親マリアンナの存在だ。ベロッキオは彼女を、他の登場人物との間に一線を引くかのような位置づけで描いている。彼女はエドガルドを取り戻すには、実力行使しかないと考え、文書で抗議するモモロに、それが何の役に立つのかと不満をもらす。
おそらくマリアンナには、結果が見えていたのだろう。本作の終盤では、絶望を抱えた彼女と成長したエドガルドの間の深い溝に焦点が合わされ、大きく動いた歴史が異なる視点から見直されることになる。
『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』
公開:4月26日(金)YEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか
(C)IBC MOVIE / KAVAC FILM / AD VITAM PRODUCTION / MATCH FACTORY PRODUCTIONS
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