パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月1日 12時0分
そのことは、アメリカ社会が「9.11テロの呪縛」から自由になったとも言えます。ですが、イスラエル支持の各家庭では、親の世代が「あれではテロリストに連帯しているようなもの」だとして激しく抗議をしています。金融機関などユダヤ系の大企業も、そうした学生運動を制圧できない大学には寄付を止めるとしています。
これに対して、学生側は「大学の基金がユダヤ系の金融機関で運用されている」ことへの激しい抗議を始めました。つまり、ガザでの民間人犠牲に加担しているユダヤ系金融機関や、軍産複合体とは大学は「縁を切るべき」であり、そのための情報開示を強く要求するというのです。そこには、リーマン・ショック以来の若者世代による「ウォール街不信」のトレンドが投影されているとも言えます。
2つ目の要因は政治的分断です。例えばニューヨーク市における、イスラエル支持派とパレスチナ支持派のデモは、昨年10月7日のハマスによる奇襲テロと、これに対するイスラエルの軍事行動が始まってすぐに発生しています。ですが、今回のデモやテント村がエスカレートした契機となったのは、約2カ月後の12月に行われた連邦議会における公聴会で、各大学の学長が批判に晒されたという事件でした。
この時は、特に下院の公聴会で共和党の議員団でナンバー3を務めるエリス・ステファニク議員が猛烈な勢いで学長たちを追い詰めたのでした。ステファニク議員は、コロンビア大学などで発生しているパレスチナ支持のデモは、「アンチ・セミティズム(ユダヤ系迫害)」であり、ユダヤ系学生への脅威になっているという論理で学長たちの見解を迫りました。
これに対して、学長たちは「暴力を示唆する文脈なら問題だが、そうでなければ言論の自由が優先する」という至極真っ当な意見を、淡々と繰り返すだけで、有効な反論ができなかったのでした。発言としては正しいのですが、政治的には「偉そうな大学学長の反社会的な硬直姿勢」だとして、見事に切り取られ、叩きのめされたのでした。今回に限って異様なまでにユダヤ系に肩入れしているCNNなどが、この動きに加担していました。
これによって、ステファニク議員は「エリート大学の学長を懲らしめる」という政治ショーを成功させて、自身の政治的影響力拡大に成功したのでした。ちなみに、ステファニク議員はハーバードの出身で軍歴もあるという、現代のアメリカの保守派が最も嫌う「アメリカのエリート」です。ですから、自分の出身大学であるハーバードの学長たちを、「庶民代表」として懲らしめるという「セレモニー」を完遂することは、特別な意味を持っていたのでした。
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