増える難民を援助と引き換えにアフリカの第三国に「転送」──イギリスが支払うコストはいくらか
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月9日 14時10分
イギリス政府は難民申請者のボートによる危険な渡航をビジネス化する業者がいると指摘し、 “転送” はこうした違法業者を封じる効果があると強調している。
「 “安全でない国” に難民を送る」計画
しかし、資金と引き換えの “転送” には、法案作成段階から批判が噴出してきた。
実際、ジョンソン内閣のもとで成立した法律に基づく “転送” フライトは当初2022年6月にスタートする予定だったが、これが遅れたのは反対派が訴訟に踏み切ったからだ。その結果、最高裁が “転送” の違法性を認めたことで、政府は法案を新たに作成し直し、今回改めて法案が可決されたのだ。
もっとも、新たな法案が可決されても、訴訟が再び発生する可能性も指摘されている。
国外でもUNHCRが「有害な結果を及ぼしかねない」と警告している他、アムネスティ・インターナショナルなど国際人権団体も批判を強めている。
当事国の政府が合意しているなら何も問題ないようにも思えるが、最大のポイントはルワンダにおける安全への疑問にある。
ルワンダの人権状況を批判した英政府
“転送” の違法性を指摘したイギリス最高裁の判決によると、ルワンダに送られた難民申請者が深刻な人権侵害に直面する危険がある。だから「転送」の合意は欧州人権条約(ECHR)に違反する、と指摘したのだ。
ECHRでは拷問や非人間的扱いが禁じられているが、ルワンダは政治犯やジャーナリストの超法規的拘束や処刑などでしばしば欧米各国から批判されている。
難民に関する人権侵害も報告されていて、2018年には処遇改善などを求める難民の抗議活動に治安部隊が発砲して11人以上が死亡した。
イギリス政府はECHRに署名しているだけでなく、ジョンソン内閣が “転送” に関する最初の法律を作成した前年2021年、ルワンダの人権状況を批判していた。
しかし、最高裁が “転送” を違法と判断した後、イギリス政府は「ルワンダは安全な国」と強調してきた。今月22日、公共放送BBCに出演したミッチェル副外相はルワンダを「素晴らしい体制(remarkable regime)」と表現した。
そのため、議会が可決した法案は一般に「ルワンダの安全法(Safety of Rwanda Act)」と呼ばれる。
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