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増える難民を援助と引き換えにアフリカの第三国に「転送」──イギリスが支払うコストはいくらか

ニューズウィーク日本版 / 2024年5月9日 14時10分

なぜルワンダか?

イギリス政府は白を黒と言いくるめるような苦しい答弁さえしているわけだが、一方のルワンダ政府にとって “転送” はどんな意味があるのか。

ルワンダは人口1400万人たらずの小国だが、紛争の続く隣国コンゴ民主共和国などから12万人以上の難民を受け入れている。このうえイギリスから最大5万人ともいわれる規模の難民申請者を受け入れることには、ルワンダ国内でも不安の声がある。

それでもルワンダ政府が “転送” を受け入れるのは、おそらく一人あたり3000万円の「報奨金」だけが理由だけではない。むしろ大きな目的は、イギリスに恩を売ることにあるとみられる。

この国を率いるカガメ大統領は反対派を力ずくで押さえ込む「独裁者」である一方、資源の乏しいこの国を成長させるため海外から投資を集め、さらにアフリカ大陸全体での自由貿易協定の締結を主導する「改革者」としての顔ももつ。

その外交方針は一言でいえば全方位外交で、欧米や中ロと等距離でつき合うことによる独立性を目指している。

このカガメ政権にとってイギリス政府の負担を肩代わりし、関係を強化することは、ひるがえってイギリスに対する発言力を強めることになる。実際にイギリス政府はルワンダの人権状況を事実上黙認した。

イギリスにとっての見えないコスト

それは同時に、大陸で影響力を強める中国やロシアに対する牽制にもなる。ルワンダは中ロとも良好な関係にあり、とりわけ中国は最大のビジネスパートナーだ。それは欧米への牽制になるが、欧米との強い関係がなければ逆に中ロに呑み込まれかねない。

これらを考えれば、ルワンダ政府にとって多少無理をしてでも “転送” に合意することは、資金援助以上の価値があるともいえる。

その裏返しで、イギリスにとってのコストは一人3000万円では済まない。

難民申請者を実際にルワンダに “転送” する費用を考えれば、イギリス政府が実行に踏み切るか、あるいは踏み切ったとしてもどの程度の規模になるかは不透明だ。

しかし、「厄介払い」のためにイギリス政府が白を黒と言いくるめるような主張を展開してきた事実は消えない。それはイギリスのいう自由や人権に対する信頼を損ねるもので、ガザ侵攻への対応などをめぐって高まる「ダブルスタンダード」批判を加速させかねない。

そちらのコストの方が長期的にはむしろ大きいとさえいえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら。

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