自信に満ち、自己主張する「強気な国」となったインド...国民が熱狂する「強いインド」を支える外相の手腕
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月15日 17時14分
これに対してモディは、グジャラート州の小さな町で紅茶売りの貧困家庭に生まれ(その出自は政治家として重要なアピールポイントになっている)、ヒンドゥー至上主義組織の民族義勇団(RSS)に加わったのを機に政界入りした。RSSは、現在モディが属するインド人民党(BJP)のイデオロギー的基盤となった組織だ。
2人は操る言葉も違う。モディは国内でも外遊時も基本的にヒンディー語で話すのに対し、ジャイシャンカルは主に英語で話をする。
経歴だけを見ても、ジャイシャンカルは、台頭著しいインドの外交政策の陣頭指揮を執るにふさわしい人物だ。1970年代後半のソ連に始まり、日本、チェコ、シンガポールなどに赴任。40年間の外交官人生の締めくくりに、中国とアメリカという最重要国の大使を務めた。インド外務省の米州局長として、アメリカとの民生用原子力協力をまとめた実績もある。
ジャイシャンカルは、モディのヒンドゥー至上主義的姿勢も熱心に擁護してきた。その非自由主義的な側面や、マイノリティーの扱い(特にイスラム教徒に対する暴力の増加)が批判されると、徹底的に反論する。「過激かどうかは見方の問題だ」と、今年2月にニューデリーで開かれた国際会議でも語っている。
首相就任からの10年間で、モディが各国首脳と大げさなハグを交わす熱いリーダーのイメージを世界に広める一方で、ジャイシャンカルは国際的な経験を武器に、モディのビジョンを世界に伝える完璧な役割を果たしてきた。外務次官就任以降に刊行された2冊の著書は、彼の世界観と、インドの外交政策が変わりつつあることを教えてくれる。
それは『インド外交の流儀』(邦訳・白水社)と『なぜバーラトが重要なのか』(未邦訳)というタイトルからも明らかだ。バーラトとは、ヒンドゥー文化の要であるサンスクリット語でインドを意味する。
国民は「強いインド」を支持
昨年9月にインドでG20サミットが開催されたとき、モディはインドの正式名称としてバーラトを使用して世界を驚かせた。批判派は、インドをヒンドゥー至上主義の国にしようとする試みの1つだと糾弾した。
だが、モディのナショナリスト的な政策は、けっして国民に不人気ではない。14年の総選挙でBJPは下院543議席のうち282議席を獲得し、インドの政党としては30年ぶりとなる単独過半数を獲得した。世論調査を見る限り、今回も14年と同レベルの議席を獲得できそうだ。
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