イスラエルはハマスの罠にはまった...「3つの圧力」に追い込まれたネタニヤフ、ガザ戦争の出口は見えず
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月21日 17時16分
国際社会では、イスラエルを非難する声が急拡大している。各国の大学で反イスラエルの抗議デモが展開され、先日開催されたヨーロッパの国別対抗歌謡祭「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」では、イスラエル代表がすさまじいブーイングを浴びた。
ネタニヤフがラファ侵攻に踏み切ったことを受け、ジョー・バイデン米大統領はイスラエルへの一部弾薬の供与を保留した。ただし、これは象徴的な措置にすぎず、バイデン政権はイスラエル向けに新たに10億㌦相当の兵器を供与する手続きを進めている。
戦争の引き金となった昨年10月の奇襲攻撃の狙いを、ハマスは明らかにしていない。だが、次の3点が推測できる。
第1に、サウジアラビアとイスラエルが和平合意に達しつつあったなか、パレスチナの大義を中東の最優先課題に引き上げること。第2に、世界最大の「屋根のない監獄」と呼ばれるガザの惨状に世界の注目を集めること。そして第3に、イスラエルをあおって過剰な武力行使に駆り立て、国際社会からの非難を引き出すことだ。
この理屈でいけば、イスラエルはハマスが仕掛けた罠にまんまとはまったことになる。
ハマス壊滅の目標には程遠く、国際社会でイスラエル批判が高まるなか、ネタニヤフは3方向からの圧力によって窮地に追い込まれている。
第1の圧力は、イスラエル史上最も右寄りの政権内部からのものだ。なかでも強硬派のベザレル・スモトリッチ財務相とイタマル・ベングビール国家治安相は、ネタニヤフが長期の停戦に同意すれば、閣僚を辞任して選挙の実施に向けて動くと語っている。最近の世論調査ではネタニヤフの退任を望む国民が71%に上っており、すぐに選挙が行われれば敗北はほぼ確実だ。
ポスト9.11との類似
第2の圧力は、今もハマスに拘束されているとみられる約130人の人質の家族や支持者からのものだ。彼らは人質解放と引き換えに停戦を受け入れるよう、ネタニヤフに圧力をかけ続けている。
そして第3は、ネタニヤフの一番の盟友であるバイデンからの圧力。11月に大統領選を控えるバイデンは、この戦争をできるだけ早く終わらせたい。戦争が長引けば、進歩派やアラブ系アメリカ人の票を失いかねない。弾薬供与の保留は、バイデンの忍耐が限界に達しつつあることをネタニヤフに伝えるシグナルの1つにすぎなかった。
戦争が長引くなかで浮き彫りになってきたのは、イスラエルにパレスチナ人と共存するための長期戦略がないことだ。停戦に合意したとしても、その後の計画が全く見えない。計画の欠如が既にガザ北部で危険な権力の空白をつくり出し、そこでギャングや部族組織、犯罪者が幅を利かせている。
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