ボブ・マーリー伝記映画のグリーン監督が大切にした「ボブのスピリチュアリティ」
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月24日 11時9分
幸いにも、私はウィリアムズ姉妹の映画『ドリームプラン』で、「自分の親についての映画を作ろうとしている家族」と話し合い、共同作業をするという経験をした。
そのとき経験から、物語を「映画という言語」で伝えるのが私の役目だと理解していた。それは今回とても役に立った。私は常に映画の視点から語り、「家族」ではなく「映画」が何を必要としているのかを考えた。そうすれば、たとえ相手と議論になりそうな状況が出てきても助けになる。でも、とにかく協力的な家族たちだったのでありがたかった。
――ボブはレゲエ界や音楽界だけではなく、広くカルチャーアイコンとして愛されている。その理由は何だと思うか。
難しい質問だけど、とにかく彼は見た目や歌い方、しゃべり方、動きまで、彼は何もかもが唯一無二のレジェンド。同時に、彼が体現しているのは、ユニークなアンダードッグの物語だ。
(首都キングストンの)トレンチタウンという貧困地区で生まれ育ち、一時は母親と父親の両方に捨てられて、ホームレスだったこともある。そこから這い上がって高みに上りつめたところもみんなが心引かれたり、憧れたりする部分だろう。そして、アイコンであり伝説であると同時に、私たちと変わらない人間らしさを持ち合わせているのも共感できる点だと思う。
――この映画には夫婦の愛、ボブの複雑な生い立ち、ジャマイカの人々のルーツ、音楽の話などいろいろな側面がある。それぞれの物語のバランスの取り方は難しくなかったか。
それらを調和させ、散漫にならないようにするため時間軸を絞り込み、舞台を1976~78年の3年間にした。銃撃事件で殺されかけ、家族と離れ離れで暮らし、『エクソダス』という名盤を作り、それによって欧米で一気に知名度が上がって世界的スターになり、癌の宣告をされ......と彼の人生が激変する最もドラマチックな時代だ。
もう1つの大切な要素がスピリチュアリティ(精神性)。それはボブにとってすごく大切なものだった。スピリチュアリティの映像化ほど難しいものはないが、いろいろ試行錯誤した結果、ボブが「ビジョン」を見たという家族の証言も受けて、焼け野原から逃げる場面を作った。あのようなメタファーで、彼の中にあった精神性を表現しようとした。
©2024 PARAMOUNT PICTURES
――個人的に共感できる、印象的な場面は?
好きなシーンはたくさんあるが、一つはリタと喧嘩した後に寝室で「ターン・ユア・ライツ・ダウン・ロウ」という曲を、アコースティックギターで彼女に歌って聴かせるところ。非常に親密で、2人の絆の強さが伝わってくるし、それぞれを演じたキングズリー(・ベンアディル)とラシャーナ(・リンチ)のケミストリーが感じられる素晴らしいシーンだ。
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