頭がよくなる魔法の薬「ヌートロピック」って何?
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月4日 18時50分
ネナド・ナウモフスキー(豪キャンベラ大学教授/食品科学および栄養学)、アマンダ・ブルマン(豪キャンベラ大学博士課程在籍/栄養と睡眠)、アンドリュー・マキューン(豪キャンベラ大学教授/スポーツ科学)
<日本語に訳すと「向知性薬」、つまり知性を高める物質のことだ。まだ研究半ばだが希望に満ちたその効果を見てみよう>
人間は古来から、知力や集中力、記憶力を高めてくれる「魔法の薬」を探し求めてきた。何千年も前から続く漢方薬もその一つだ。
現代では新たに、「ヌートロピック(向知性薬)」と呼ばれる脳サプリがある。「認知機能向上薬」や「スマートドラッグ」とも呼ばれ、グミやガム、錠剤や皮膚パッチなどの形でスーパーマーケットや薬局、ガソリンスタンドで購入できる。医師の処方箋も必要ない。
だがヌートロピックには本当に脳のはたらきを向上させる効果はあるのか。副作用はないのだろうか。これまでの研究を振り返ってみよう。
ヌートロピックとその作用
「ヌートロピック」という言葉は1970年代前半、ルーマニアの心理学者であり化学者のコルネリウ・E・ジュルジアが、記憶力や学習能力を高める可能性のある化合物をあらわすために作った言葉だ。ギリシャ語の「ヌース(考える)」と「トロペイン(導く)」が語源となっている。
ヌートロピックは神経細胞間の信号伝達を改善し、神経細胞の健康を維持してエネルギー生成を助けることで脳に作用する可能性がある。一部のヌートロピックは抗酸化物質を含み、脳内に有害物質(フリーラジカル)が蓄積して引き起こされる神経細胞のダメージを軽減させる効果が期待できる。
だが安全性と効果についてはどうなのだろうか。最も広く使用されている4つのヌートロピックについて検証してみよう。
1.カフェイン
意外に思う人もいるだろうが、カフェインもヌートロピックだ。一日のはじまりにコーヒーを飲む人が多いのも納得だろう。カフェインは私たちの神経系を刺激してくれる。
カフェインは速やかに血液中に吸収され、人間のほぼ全ての組織に行き渡る。脳もそのひとつで、カフェインが到達すると脳は覚醒し、反応速度が速くなり、気分が高まり、活力が湧いてくるような感覚になる。
これらの効果を得るためには、一度に32~300ミリグラムのカフェインを摂取する必要がある。神経刺激効果を認識するために必要なカフェインの量は人によって異なる。
ただしカフェインを摂取しすぎると不安のような症状やパニック障害、睡眠障害や幻覚症状、胃腸障害や心臓の不具合が起きる可能性がある。一日に摂取するカフェインの量は、成人で最大400ミリグラムまで、つまりエスプレッソ3杯ぐらいまでがいいとされている。
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