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SF映画の世界...サウジ皇太子が構想する直線型都市は「未来の街」か「監視社会」か

ニューズウィーク日本版 / 2024年6月18日 18時29分

ザ・ラインは最高のエコシティーとして宣伝されている。自動車を全く走らせず、二酸化炭素の排出量はゼロ。都市全体を網羅する高速鉄道を地下に造る。

昨年のベネチア・ビエンナーレ国際建築展でのサウジアラビアの展示によれば、ザ・ラインはムハンマドが掲げる「人間の住みやすさの向上」を実現する公共空間だ。

この展示では、イギリスの著名な建築家デービッド・アジャイから欧州中央銀行を設計したオーストリアの設計事務所コープ・ヒンメルブラウまで、世界的な建築家たちが作ったザ・ラインの設計案が紹介された。

エジプトが首都カイロの東50キロに建設している新しい行政首都 KHALED ELFIQIーMATRIX IMAGESーREUTERS

古くて新しい「直線型都市」

直線型都市のアイデア自体は、新しいものではない。

1800年代にはスペインの都市計画者アルトゥーロ・ソリア・イ・マータが、このアイデアを先駆けて導入。路面電車の線路に沿って都市を建設し、通勤時間を短縮して人々の幸福度を最大限に向上させる構想を打ち立てた。

20世紀前半にはアメリカの都市計画者エドガー・シャンブレスが、アメリカ大陸を横断する直線型都市の設計を考案。同様の構想はソ連でも持ち上がっていた。

これらのプロジェクトは、いずれも実現していない。確かに計画は魅力的だった。移動手段は効率的だし、都市を拡張する際も容易にできるだろう。

しかし無秩序に広がることを防ぐために、直線型都市は極めて高いレベルの管理を前提としている。そこで暮らす人々も、ルールに従うことが求められる。

ザ・ラインは、60年代の実験的建築グループ「アーキグラム」や「スーパースタジオ」が開発したアイデアも取り入れている。

いずれも前衛的な設計で知られたグループで、前者は巨大な金属製の脚で地上を自由に移動できる構造物「ウオーキング・シティー」、後者は砂漠などの中に建てられた直線型の構造物「コンティニュアス・モニュメント」が有名だ(こちらは不気味なほどザ・ラインに似ている)。

だがアーキグラムやスーパースタジオの青写真は、アメリカの都市社会学者マイク・デービスが言う「夢を実現する都市主義」に興味を持つ専制君主や投資家に気に入られるために描かれたわけではない。

むしろその意図は反体制的であり、消費者資本主義に批判的だ。例えばコンティニュアス・モニュメントは、過度の都市化が自然破壊を引き起こす危険性を当時から提起していた。

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