1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

パリで成功をつかんだ日本人調香師、新間美也「まず詩を書いて、その目標に向け調合する」

ニューズウィーク日本版 / 2024年6月19日 13時30分

新間さんが目指したのは、当時はまだ珍しかった独立型調香師だ。パリで勉強している間、周囲からよく日本のことを聞かれ、改めて日本の文化にひたる時間も持ちたいと感じて百人一首を味わうようになった。やがて、和歌の自然の世界を香りで表現したいと思うようになる。

「学校を卒業して、百人一首の"花""月""風"を詠んだ歌を解釈して生み出した香水が、私のブランドMiya Shinma Parisの始まりでした」

友人に「きっと売れるよ。ボン・マルシェ(パリの老舗百貨店)に聞いてみたら」と言われ、つてもなかったのに売り込んだことが大きな転機となった。「勇気があったとかではなくて、ただ夢中だったのです」と新間さんは四半世紀前を振り返る。香水は同店で販売され、富裕層から大好評を得たのだった。

2024年5月発売のMiya Shinma Parisのゴールドコレクション2作目「FUWARI」。最初に香るローズドメ・エッセンスやピンクグレープフルーツが、フローラルから、墨やムスクなどの香りへと変化する。55ml 、250ユーロ

香りという「見えない芸術」で、日本らしさをアピール

日本で育ち、日本の自然の香りをよく知っている新間さんは、香水を通して日本の正統なイメージを西洋社会に伝えていくという使命感を持っている。

「シンプルでありながら美しいという日本の美学を香りで表現したい」と、花、月、風に続いて桜の香水を作った。このシリーズ「ヘリテージ」は現在10種類。新間さんだからこそできる、和の要素を織り込んだ香水はほかに「着物(4種類)」、浮世絵へのオマージュの「ロード・ミヤ・シンマ(6種類)」 「ゴールド(2種類)」のコレクションが揃っている。日本での本格的な販売は、2016年秋に伊勢丹新宿店で開催された世界の香水の祭典「サロン・ド・パルファン」から始まった。

数百種もの香料を記憶している新間さんは、自分が感じたことを感じたままに香りに反映させている。作ってみたい香水について詩を書き、その目標に迫っていくという方法で調合を考えていく。出来上がった香水は、いずれも自信作。自分の子どもを世に送り出す気持ちで販売しているという。

自分はあくまでもクリエイターであって、ビジネスには長けていないと語る新間さんは「数えきれない失敗もありました。でも、その経験がすべて糧となって現在の私があります」と言う。

そして「香りは見えない芸術です。たとえ私が引退しても香水の処方は残ります。遠い将来も、たくさんの方たちに、Miya Shinma Parisの香水を芸術作品として愛用していただけたら嬉しいです」と、より販売戦略に力を注いでいる。Miya Shinma Parisは、とりわけイタリアやドイツで販売数が伸びている。その理由は、両国で、独立型調香師が作る小さいブランド(ニッチブランド)がフランスよりも好まれているからだと教えてくれた。品質管理も徹底し、厳選したフランスの工場で出来上がった自身の香水は、パリのMiya Shinma Parisのアトリエで、日本の基準に合わせて再度品質をチェックしてから出荷している。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください