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「サウジアラビア v アラブ首長国連邦」中東地域の主導権をめぐる静かなる地政学争い

ニューズウィーク日本版 / 2024年6月19日 13時12分

経済多角化のビジョン対決

国際社会における威信をめぐる競争では、権威ある国際会議の開催を通じてソフトパワーを増強するために戦略的な投資を重ねている。

サウジアラビアは17年に未来投資イニシアチブ(FII)を設立し、UAEは23年にUNCTAD(国連貿易開発会議)の世界投資フォーラム(WFI)を首都アブダビで開催した。

21年にはUAEがドバイで中東初となる国際博覧会(万博)を開催。サウジアラビアは30年にリヤドで開催する。また、昨年12月にドバイで国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が、今年2月にアブダビでWTO(世界貿易機関)閣僚会議が開催された。

最も重要な競争は、それぞれの国が追求する「ビジョン」戦略に関連するものだ。UAEは10年に国家開発計画「ビジョン2021」を掲げ、多角化を進めてきた。

ハリファ港とジュベル・アリ港を軸とする戦略的イニシアチブを通じて世界的な交通とビジネスのハブとしての地位を獲得し、国営航空会社エミレーツ航空の成功がそれを支えている。

一方、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマンも16年に、経済多角化の野心的なロードマップ「ビジョン2030」を打ち出した。

目玉は紅海沿岸の砂漠地帯に建設する未来都市「NEOM」構想で、地域で傑出したインフラ、交通、テクノロジー、ビジネス、金融のハブを目指す数千億ドル規模の取り組みだ。

サウジアラビアはさらに、23年に政府系ファンドが100%出資するリヤド航空を設立(就航は25年の予定)するなど、海と空の物流のハブに変貌するために1000億ドル以上を投じている。

なかでも、中東・北アフリカ地域で最大規模かつ最も交通量の多い港湾になるとされるジッダ・イスラミック港への巨額の投資を通じ、港湾におけるUAEの優位に挑戦しようとしている。

興味深いことに、イランとの関係改善が、一連の競争を激化させるかもしれない。中国の主導によるイランとサウジアラビアの和解は、サウジアラビアとUAEが地域で共有する主要な脅威を効果的に排除し、ペルシャ湾北部と南部の長年にわたる地政学的対立を緩和した。

この地域は今後、イランとGCCの地政学的競争から、サウジアラビアとUAEの地理経済的競争に焦点が移って新しい時代を迎えるかもしれない。

通商政策では、サウジアラビアが21年7月に、国内の工業生産を強化するために保護主義的な政策を導入。外資奨励のために優遇措置が取られているフリーゾーンで製造された製品やイスラエルからの輸入品を使った製品を、特恵関税の対象外とした。

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