「悪名は無名に勝る...」売名の祭典と化した都知事選の源流は11年前の「選挙フェス」にあった
ニューズウィーク日本版 / 2024年6月25日 18時47分
悪い方向に流れている根底にあるのは彼らの行為だけでなく、選挙が盛り上がることが重要であるという「選挙フェス」的な発想そのものに求められる。
大衆の隠された意思を言語化
「選挙フェス」の源流は、2013年参院選に立候補した三宅洋平だ。私も当時取材したが、選挙フェスと称してレゲエを演奏しながら脱原発などを語る三宅の選挙は確かに斬新ではあった。
いま振り返れば、彼の言葉は単に感情に訴えかけるだけのチープなもので具体的な政策もなかったが、左派・リベラル系著名人や知識人を中心に支持を獲得していた。
その後、演説会に「祭り」という言葉を多用したのは一時、三宅とも共闘したれいわ新選組の山本太郎だった。
「生活が苦しいのを、あなたのせいにされていませんか?」と「上」と「下」の対立構図をつくり上げながら、彼は国政選挙でも前回都知事選でも選挙という祭りの主役になろうとした。
一時の感情や共感をフックに選挙を音楽フェスのように盛り上げて逆転の可能性に賭ける、もしくは自分の名前や主張を世に知らしめる。こうした手法はポピュリズムと相性がいい。
イデオロギーを根幹に据える政治家が体系的な思想に基づいた「主義」で世界を捉えるのに対し、ポピュリストはしばしば世界の見方を単純化する。
既成政党や官僚、メディアを既得権益側と位置付け、「持たない者」との対立構造を争点に据える。こうした構図づくりは必ずしも悪ではない。ポピュリストは大衆の隠された意思、言語化されない思いを具現化する存在であり、既成政党や政治家に不満を突き付けるからだ。
「古典的な都知事選」が今回も
山本は理論的なブレーンをつけ、減税をフックにより広範にポピュラリティーを獲得しようとする意思は見せていた。だが、当選という目的や大義を欠いた「選挙フェス」は選挙を手段としたたちの悪い売名とも相性がよかった。
都知事選で「政治を盛り上げる」と口にする候補は少なくないが、盛り上げた先にどのような社会を構想しているかは見えてこない。広範なポピュラリティーの獲得というよりも、より小さな内輪受けレベルを超える主張がない候補者が乱立する。これが現状だ。
彼らが訴える建前は話半分で受け止めるくらいでちょうどいい。
「恥を知れ」「政治屋を一掃したい」という言葉が注目された前安芸高田市長の石丸伸二であっても、現状は小ポピュリストであるという評価が適切だろう。
市議会との対立構図をつくった先に注目されたメディアがYouTube、あるいはSNSということは新しいかもしれないが、既成政党への不信感に訴えかける言葉自体に新しさは何もない。
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