能登半島地震から半年、メディアが伝えない被災者たちの悲痛な本音と非情な現実
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月1日 10時40分
6月初めには7月22日頃に約5キロ離れた別の集落の仮設住宅に入れると言われたが、その仮設には親戚も知り合いもいない。入居を先延ばしにした上、「高齢者の1人暮らしなど弱者に配慮のない割り振り」をしている市に対し、不信感ばかりが募っているという。
長沢地区にはプレハブ型の仮設20戸と木造長屋型の仮設68戸、計88戸が建てられたが、辻田家の近所にはどちらにも当たらなかった家が数軒ある。なかには半壊の家で今もトイレが使えず、凝固剤を使って処理している1人暮らしの高齢女性もいるが、一方で自宅に住めるのに仮設住宅が当たり、そこを物置代わりに使っている人の話も聞く。
「市は何を基準に(仮設に入る人を)選んでるんですか? もう信じてないし、言っても駄目やなと思っている」と、恵利子は言う。夫の政俊は、別の集落の仮設に入った場合、自分が仕事に出ている間に妻が部屋に独り閉じ籠もることを案じ、なんとか同じ集落の仮設に入れないかと市に電話した。
彼は言う。「弱者に配慮して仮設に外れたなら私らも仕方がないと思うけど、周りを見ると弱者への配慮はない。それで電話したら、『苦情相談室』に回された。最初はこの家つぶしてやり直そうとか、将来のこともいろいろ考えとったけど、もう気力もなくなった」
とはいえ、輪島市で生まれ育った2人は、今のところこの地を出ていくつもりはない。三井町は、石川県木であるヒノキアスナロ(石川方言で「アテの木」)の産地であり、政俊と息子(36)は林業をなりわいとしている。その息子は、数年前に自宅の隣に家を新築したばかりだった。
辻田家のように故郷で再起を図ろうという住民にさえ、行政の対応はあまりに冷たく映る。恵利子は悲嘆をあらわにして言った。「岸田さんは何をしとるんですか?」
輪島の朝市はほぼ変わらぬ姿で取り残されていた(6月9日)KOSUKE OKAHARA FOR NEWSWEEK JAPAN
公費解体が進まない理由
仮設への入居をめぐって、集落も人の心もバラバラになりかねない。そうした三井町内で6月6日に入居が始まったばかりの仮設住宅を訪れると、近くの三井公民館前で館長の小山栄(74)が1人でたばこを吸っていた。
小山に聞くと、避難所となったこの公民館には4人の避難者がいる(6月24日時点で2人に減った)。そのほかの住民はようやく仮設住宅に移ることができたが、避難所に仮設シャワーが設置されたのもつい最近のことで、小山自身も5月末まで避難所内で寝泊まりしていた。
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