緊迫するイスラエルとヒズボラの影で、イランが狙う「終わりなき消耗戦」と戦争拡大の危険性
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月2日 14時21分
そんなイランにとって、イスラエルは中東地域における最大のライバルであり、仇敵アメリカの同盟国でもある。だから何としても排除したい。イランの最高指導者アリ・ハメネイは、1948年建国のイスラエルが建国80周年を迎えることはないと繰り返し「予言」してきた。
だが4月13日深夜のミサイルとドローンによる攻撃を除けば、イランは一貫してイスラエルとの直接対決を避けてきた。なぜか。1960年代までのエジプトがそうだったように、終わりなき消耗戦で徐々にイスラエルの首を絞めるという戦略を採用してきたからだ。
予備役の軍人が常に前線に立たされていたらイスラエル経済は成り立たず、自滅に向かう。そう思えばこそ、イランはイエメンのイスラム教シーア派組織フーシのような武装勢力をけしかけてイスラエル包囲網を築いてきた。
2006年にはイスラエル軍がレバノン領内に侵攻し、ヒズボラに大打撃を与えた。このときは国連安保理の決議に従う形で停戦が成立したのだが、その決議に盛り込まれた「ヒズボラの武装解除」が実行されることはなかった。
その後も散発的な砲撃戦は繰り返されたが、国境地帯ではおおむね平穏な状況が続いていた。イラン側にも、ヒズボラの軍事力を温存したい事情があった。そうすれば自国の核施設に対するイスラエルやアメリカのミサイル攻撃を抑止できると考えていた。
しかし、ここへきてイラン側の読みが変わったようだ。アメリカのバイデン政権は中東から手を引きたい一心で、イランの核施設に攻撃を仕掛ける可能性は後退した。イスラエルもガザ戦争で体力を消耗し、政府は国民から見放され、長期戦略の立案など不可能にみえる。
ならば今こそ、ヒズボラの軍事力にものをいわせる時期ではないか......。
現在までのところ、ガザ戦争がイスラエル経済に大きな打撃を与えた形跡はない。イスラエルの長期的な経済見通しについては投資家もおおむね楽観的だ。ただしレバノンでの本格的な戦闘となれば、その戦費負担はずっと重くなり、イスラエル経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある。
一方のイランは、高濃縮ウランの生産を加速させるなど、強気一点張りだ。ヒズボラの指導者ナスララも、精鋭部隊をイスラエル北部のガリラヤ地方に侵攻させる用意があると警告。
地中海を行く船舶も攻撃できるし、独立国キプロスへの攻撃も辞さないと脅している(キプロスはEU加盟国で親イスラエル。国内にはイギリス軍の基地もある)。
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