観光客向け「ギャングツアー」まであるロサンゼルス...地図に載らない危険な境界線はどこか
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月4日 17時30分
ストリート・ギャングと縁の深い地域で暮らしている人は、地元の地理の込み入った事情を強く意識しており、「安全な場所」と「危険な場所」を分ける境界に敏感だ。その境界を見きわめるのはかなり難しいが、自分自身や所属するギャングの縄張りを主張する落書き、壁画が手がかりになる。
ロサンゼルスの街並み JohnNilsson-shutterstock
これは、暴力を伴う報復の引き金となり得る危険な行為であり、縄張り間の境界は特に緊張感に満ちている。一部の縄張りは、フリーウェイなどの主要道路、線路、ロサンゼルス川などの明らかな障壁によって区切られている。
だが、多くの場合、経験を通して学ぶしかない。たいていは大変不愉快な経験だが。だいたいの境界は住宅街の2車線道路の「こちら」と「あちら」くらい微妙だ。だから地元住民は、懸命に守られている見えない境界線を越えずに行ける場所と行けない場所の頭のなかの地図(メンタルマップ)を自分でつくらなければならない。
そのような不穏な場所では、住民は身の安全を保つために、日々慎重に過ごす必要がある。ブエノスアイレスのバリオで間違った色やスポーツウェアを着たときと同じく、命取りになりかねない。ギャングの一員であれば、近くの店が敵の縄張りにあったら、わざわざ遠くまで食料品やガソリンを買いに行く場合もある。
また、ギャングの境界線が移動するのに応じて、通る道も定期的に変更しなければならなくなる。そのために、ほんの短い散歩のはずが、目に見えない迷宮を通り抜ける複雑で遠まわりの道のりになる可能性がある。
ギャングとはまったく関係ない人が銃撃戦に巻きこまれることも十分考えられる。実際、最近発生した発砲事件の犠牲者のなかには9歳の子供がいた。住民の多くが、自分が口出ししたことをギャングに知られるのを恐れて、警察への通報に消極的であるのは言うまでもない。
こうしたリスクを考えれば、ロサンゼルスの象徴であるフリーウェイを走っているときでもないかぎり、そういう場所を目のあたりにする「部外者」がほとんどいないのもうなずける。彼らは別の惑星にいるようなものなのだ。
白人による人種差別から身を守るために始まった
ロサンゼルスにおけるギャングの犯罪史――言い換えれば、ロサンゼルスにおける社会的な絆と断絶の歴史――は、20世紀初頭にさかのぼる。〈白い柵(ホワイトフェンス)〉のような象徴的な名前を持つメキシコ系のストリート・ギャングが、白人の近隣住民による人種差別的な攻撃からヒスパニックのコミュニティを守るために誕生した。
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