クリップスとブラッズ、白人至上主義、ヒスパニック系...日本人が知らないギャング犯罪史
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月4日 18時20分
ロサンゼルスの街並み JohnNilsson-shutterstock
こうしたグループは、ギャング・カルチャーを共有していて、「血(ブラッド)」や「不良品(クリップ)」などと名乗ってはいるが、単一の階層組織ではなく、実際にはゆるやかに結びついたネットワークを構成していると考えたほうがいい。さらに言えば、一部では人種的な同質性はもはや存在せず、さまざまな出自のメンバーを歓迎し、同盟関係を結んでいる。
とはいえ、ロサンゼルスのギャングの大多数は、依然として特定の人種的、民族的、国民的アイデンティティを持ち、名称もサンズ・オブ・サモア(サモアの息子たち)、エイジアン・ボーイズ(アジアの仲間)、アルメニアン・パワー(アルメニアの力)など、メンバーの出身地や地理上の由来を表していることが多い。
ヒスパニックのギャングは、彼らが生まれ、いまも自分のものであると主張している地区の名称を使っている。勢力のあるメキシコ系のエルモンテ・フローレス(EMF)、フロレンシア13(F13)、オンタリオ・バリオ・スール(OVS)、アヴェニューズ、アズーサ13(A13)、ヴェニス13(VS13)、もっと多国籍の〈18番街〉などだ。
13という数字がよく使われているが、これは、「メキシカン・マフィア」を表すMがアルファベットで13番目の文字だからである。ロサンゼルスを拠点にするその他のギャングの名称、たとえばマラ・サルバトルチャ(MS-13)の由来はやや不確かだが、エルサルバドル(「サルバ」)のスラングでギャングを意味する「マラ」と警戒や都会慣れを意味する「トルチャ」を合成したものであると言われる。
MS-13は当初「ストーナー」ギャング(麻薬で恍惚状態になって、ローリング・ストーンズなどのロックバンドの曲を聴くことで知られるヒスパニックか白人のギャング)と見られていた。
だが、エルサルバドル内戦(1979~92)を逃れてきた者が大半を占めるメンバーは、ロサンゼルスの過酷なストリートで生き抜くためには、相手と同じ手段で戦わなければならないことにすぐに気づいた。
1980年代初頭にはおおむね無害だったMSは、10年ほどたつと残忍なMS-13に変貌し、麻薬、武器と人身の売買、恐喝、殺人などで悪名を馳せた。エルサルバドルの内戦が終結して、多くのメンバーが強制送還されたが、彼らはさまざまな不正取引のルートを利用して、中米や北米の一部にその活動を広げている。
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