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イスラエルの暗殺史とパレスチナの「抵抗文学」

ニューズウィーク日本版 / 2024年7月10日 8時45分

「祖国とは過去のみだとみなした時、私達は過ちを犯したのだ。ハーリドにとって祖国とは未来なのだ。そこに相違があり、それでハーリドは武器をとろうとしたのだ。敗北の底に、武器の破片と、踏みにじられた花とを捜す者の落胆の涙は、ハーリドのような幾万もの人間を遮ることはできない」
(ガッサーン・カナファーニー『ハイファに戻って』河出文庫、258ページ)

ガッサーン・カナファーニー氏の暗殺が起きたのは今から52年も前だ。当時、カナファーニー氏の暗殺が確認されると、作戦部隊の担当者は、イスラエルのトップである首相に知らせた。報告を受けた当時のイスラエル首相ゴルダ・メイアは、その作戦についてこう述べていた。

「我々は知的武装した集団にも匹敵するような人物を排除した。カナファーニー氏のペンは、イスラエルにとっては千人の武装ゲリラよりも危険だ」

この作戦が実行されたのは1972年7月8日。その数日前、多くのパレスチナ人のジャーナリストや作家など、メディア関係の中心的な人物を抹消する決定を下したのはゴルダ・メイア首相だった。
 
イスラエルのパレスチナ住民への虐殺が激しさを増していく状況の中で、このパレスチナ人作家による生前最後の小説、『ハイファに戻って』が再び注目されるようになった。

カナファーニーの小説は、「ポスト・ナクバ文学」に分類され、特に『ハイファに戻って』は、パレスチナの現実を見事な語り口で表現している。21世紀のアラビア語翻訳小説トップ10にも選ばれたこの作品は、1970年にベイルートで出版され、パレスチナ人の苦しみがリアルに綴られていることで知られる。

物語は、土地を奪われたパレスチナ人夫婦を描く。彼らが20年ぶりにハイファに戻ってみると、さまざまなことが変わっていた。出来事は三人称の語り手を通して語られ、「帰還(戻って)」という概念をいくつかの文脈で提示する。これによっては、カナファーニーは、現実と虚構が入り混じった、あらゆる要素が存在する物語を語ることができたが、同時に驚きを呼び起こし、読者を過去の記憶へと押しやる知的叙事詩を提示することもできた。
 
カナファーニー氏の暗殺から1年も経たない1973年4月、詩人カマル・ナセル氏は、カマル・アドワン氏とアブ・ユセフ・アル=ナジャール氏の2人の同志とともに、イスラエル情報部によってベイルートで暗殺された。プロテスタントのキリスト教徒であったナセルは、遺言通り、イスラム教徒の同志ガッサーン・カナファーニーとともに埋葬された。

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