これからの蚊対策は「殺さず吸わせず」 痒いところに手が届く、蚊にまつわる最新研究3選
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月12日 18時50分
研究グループは、吸血停止に関わる物質も刺される動物の血液中にあるのではないかと考えて、メスのネッタイシマカとマウスを用いて、探索しました。
まず、実際の血液とATP溶液に対する吸血行動を比較したところ、直接マウスから吸血した場合の方が摂取量は少なくなりました。つまり、血液に本来含まれる何らかの物質に、吸血を抑制する働きがあると推測されました。また、マウスから直接吸血させると、お腹いっぱいになる前に吸血を止める個体がほとんどであることから、吸血抑制物質は吸血の後半で急速に増加・活性化する物質であると予想されました。
次に、吸血抑制物質の正体を突き止めるために、血液を成分ごとに分けて解析しました。その結果、ATP溶液に血清を加えると、ATP溶液を単独で与えたときと比べて、お腹いっぱいになるまで吸血するネッタイシマカの割合が減りました。このことから、血清に吸血抑制物質が含まれていると示唆されました。
さらに解析を進めると、血液凝固が起きるときに最初に作られるFPAが吸血停止シグナルとして機能する物質として同定されました。
検証のため、ATP溶液に合成FPAを添加したり、血液をFPA生成阻害剤で処理したりした結果、FPAがないと蚊の吸血は促進されること、血中のFPAを増やすと吸血を途中で止める個体が増加することが観察されました。
研究者たちは、蚊には腹部膨満という物理的な吸血停止と、FPAによって腹八分目でも停止する機構が共存していることから、順調に吸血できずに通常よりも長く時間をかけてしまった場合でも吸血を止める仕組みが備わっているのだと考察しています。また、哺乳類では動物種が違ってもFPAの構造はよく似ているため、FPAで感知するシステムは理にかなっていると考えています。
今後は、実際に蚊が刺しても吸血量を減らすために、蚊にFPA受容体作動薬を投与したり、砂糖水や花の蜜の中にFPAを作る腸内細菌を入れて投与したりといった手法も検討していると言います。
これまでの蚊媒介感染症対策は、蚊帳や長袖長ズボンの着用で蚊との物理的な接触を減らしたり、殺虫剤や虫よけで蚊をヒトに近づけないようにしたり、致死遺伝子を導入した遺伝子組換え蚊を環境放出して蚊の数そのものを減らしたりといった、蚊に刺される機会を避けることに重きを置いたものでした。本研究を応用すれば、たとえ病原体を持つ蚊と接触しても感染の可能性を低下させることができるかもしれない点が、画期的と言えるでしょう。
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