「自己責任論」から「親ガチャ」へ...「ゼロ年代批評」と「ロスジェネ論壇」の分裂はなぜ起きたのか
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月18日 9時45分
<現在、「親ガチャ」、地方や社会階層をテーマにツイッター(現・X)で「格差の再生産」が議論されているが、20年前は異なっていた>
既存の権力や秩序から自由だったはずのサイバースペースは、今や古くから続く政治・権力争い・謀略・戦争の世界に巻き込まれている。
「ゼロ年代」「ロスジェネ」「格差」...。2000年代初頭に論じられていたことは現在、どのように継承され、継承されなかったのか。
気鋭の批評家・藤田直哉の最新刊『現代ネット政治=文化論: AI、オルタナ右翼、ミソジニー、ゲーム、陰謀論、アイデンティティ』(作品社)より「第一部 ネット時代の政治=文化」を一部抜粋。
◇ ◇ ◇
ゼロ年代の言説は、分裂していた。オタクやネットを扱う「ゼロ年代批評」と、格差や労働の問題を扱う「格差論壇」「ロスジェネ論壇」に。
前者は、社会や政治の問題を忌避する傾向があった。2004年に流行語になった「萌え」という言葉が象徴する、社会や世界の問題を無視して多幸感に浸れる疑似的なユートピアを描くフィクションに耽溺する者たちが多数支持した。
一方、この社会や生の深刻な問題に直面し、なんとかしようとする者たちが後者であり、その間に、感性・認識・ライフスタイルの次元での深刻な分断があったと言ってもいい。
前者は後者を「冷笑」することが多かった。当時、圧倒的に影響力があったのは前者だった。今から振り返れば、正しかったのは後者であったと思われるかもしれない。
2001年に小泉内閣が誕生し、経済財政政策担当大臣に竹中平蔵が就任した。「構造改革」がキャッチフレーズになり、新自由主義路線に大きく舵が切られた。
2004年には山田昌弘『希望格差社会』が刊行され、格差の再生産などに警鐘が鳴らされ、2005年には本田由紀『多元化する「能力」と日本社会―ハイパー・メリトクラシー化のなかで』が刊行されメリトクラシー(能力主義)の問題が指摘される。
これらを問題視する者に対して、2ちゃんねるなどでの多くの論調は、主張を真面目に受け取らず、「ブサヨ」「反日」などと叩くのが大多数だった。
生活保護やニートや童貞や無職を叩いて嘲笑し、「自己責任」とする論調も強かった。2004年イラク日本人人質事件では「自己責任」の大合唱であったことは今でも良く覚えている。
現在とは異なり、2000年代前半では、ニートやフリーターは、「自己責任」であり「心の闇」の問題として心理化される傾向があった。
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