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広がる「絶望死」...先進国で唯一、低学歴層の死亡率がアメリカで上昇している理由

ニューズウィーク日本版 / 2024年7月24日 11時0分

加えて、低学歴層に関して、若い世代ほど絶望死による死亡率が若い年齢のうちに増加していることも発見された。

実際のところ、絶望死は中年層に限られた問題ではなく、低学歴若年層のあいだでも蔓延している。その反対に大卒者に関しては、絶望死の死亡率は生まれた年による影響はなく、どの世代のどの年齢時点においても低い。

では、低学歴と絶望死をつなぐ要因は何なのだろうか。両著者は、継続的な雇用機会の喪失を指摘している。

地域別に見ると、絶望死は雇用率と相関を示している。雇用率は生産年齢人口に占める被雇用者の割合を示すもので、失業率とは違い、非求職者を分母に含む。このため、働く意志を失った人が増加した場合、失業率は悪化しないが、雇用率は悪化する。

低学歴の人々の雇用をめぐる環境は、確実に悪化している。従来は、製造業が低学歴の人々に安定的雇用を提供してきた。各地に大企業の工場があり、組合に保護された「ブルーカラー貴族」が安定的な雇用を享受していた。

しかし近年、そのような工場の多くが閉鎖され、低学歴層の雇用は不安定になっている。低学歴層の雇用劣化は、人生の見通しや意義付け、結婚し安定的な家庭を築く能力、地域のネットワークとの接点の喪失にもつながっているのだ。

雇用率の減少に対して、働かずに社会福祉に依存する人々を怠け者と非難する見方もある。

しかし本書は、まさにこのような人々の間で絶望死が広まっているのであり、その他の様々な指標を見ても、低学歴層が苦しい生活状況にあると指摘している。働くことを放棄した人々に道徳的な非難を浴びせるのは一面的にすぎると本書は強調する。

では何をすれば良いだろうか。

低学歴層の雇用を改善するための方策について真剣に議論されているが、その結論は必ずしも明確ではない。労働組合の強化、労働力外注への規制、最低賃金の大幅な引き上げなどは弊害も大きい。

その一方で、本書は医療制度改革には積極的である。低学歴層の雇用が不安定化しているのは先進国に共通しているにもかかわらず、アメリカでのみ絶望死が上昇しているのは、アメリカの医療制度の特殊性がある。より多くの人々がより安価に適切な医療を受けられるようにするべきだと本書は指摘する。

本書が指摘した絶望死という現象は、現代のアメリカ社会を理解する上で不可欠である。

トランプは悲観的レトリックを前面に押し出し、大統領に選出された。生活状況が著しく悪化した低学歴層は、トランプが自分たちの実情を理解してくれていると感じている。

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