バイデン政権とは何だったか──「超大国であろうとして空回り」トランプとハリスそれぞれの打開策
ニューズウィーク日本版 / 2024年7月25日 12時15分
ペイされるか否かで全てを判断するなら、国外で自由や民主主義を説いて泥試合に陥るような “ムダ” は避けるだろう。実際、トランプはウクライナだけでなく、イスラエル、台湾などへの支援に消極的な姿勢をみせている。
つまり、トランプが大統領になればアメリカはそもそも超大国として振る舞わなくなるので “超大国として振る舞おうとしてそれができずに空回りする” というバイデンの苦悩はなくなると予想されるのだ。
ただし、それは2020年までと同じように、アメリカ自身が世界最大の不安定要因になる可能性と紙一重といえる。
ハリスが当選したら
これに対して、バイデンが自身の撤退に合わせて支持を表明したハリスは、ナンシー・ペロシ元下院議長など民主党有力者の多くからも支持されている。
そのハリスが当選した場合、アメリカで初めて有色人種女性の大統領が誕生する。それ自体エポック・メイキングだが、ここではその外交方針に話を絞ろう。
ハリスは法律家としてのキャリアが長く、外交・安全保障分野での実績は少ない。そのため大統領になっても基本的にバイデン路線を引き継ぎ、ウクライナ支援や中国包囲網の形成などは維持されるとみられる。
しかし、それでもバイデンと大きな違いとしてあるのが、バイデン以上に自由や民主主義を重視する姿勢だ。
ハリスはイスラエルによるガザ侵攻を、バイデン政権の主要閣僚のなかでいち早く批判した一人だ。だからハリスが大統領になればイスラエル向け兵器支援が絞られるという見立てもある。
先述のように、ガザ侵攻がバイデンのダブルスタンダードを際立たせた。とすると「たとえ同盟国でも深刻な人道危機を招くことは認めない」というハリスの方針は、このダブルスタンダードを多少なりとも緩和する。
わずかな矛盾も見過ごされにくい
つまりハリス当選の場合、アメリカはこれまで以上に世界のロール・モデルとして振る舞おうとするとみられる。
それはそれで、同盟国の問題を黙認してきた冷戦時代からのアメリカの行動パターンとは異なる。
政治家の方便や建前にうんざりした世論には、こちらの方が一貫性があって、受けはいいかもしれない。
とはいえ、自由、民主主義、人権といった原則をこれまで以上に厳格に適用すれば、わずかな矛盾や逸脱もこれまで以上に見逃されにくくなる。
深刻な人権問題を抱える同盟国はイスラエルだけでない。程度の差はあれ、インド、サウジアラビア、そして白人極右のテロが広がるヨーロッパ各国(この点ではアメリカも同じだが)も同様だ。子どもの貧困などが目立つ日本も例外ではないかもしれない。
しかし、これらに逐一口を出せば外交に支障が出る。かといって、何もしなければ、世論の逆風をこれまで以上に強く受ける。
有色人種の女性で、 “差別やヘイトに厳しいはず” と期待を抱かれやすいがゆえに、その期待が少しでも外れた時に幻滅が広がりやすいことは容易に想像される。
その意味で、ハリス政権が誕生しても、アメリカにはイバラの道が待ち受けると予測される。
バイデンが苦闘した “超大国として振る舞おうとして空回り” の逆境を乗り越える二つの道筋は、どちらも険しいと見込まれるのである。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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