今の雑誌は「同じ面子、差異のない内容」ばかり...雑誌の時代だった80年代と何が違うか
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月12日 10時55分
今からすると隔世の感があるが、アメリカに追従してきた戦後日本が大きな分岐点を迎えているというのが、雑誌としての認識だろう。
このように、前衛から後衛までいろいろなカラーがあったとはいえ、80年代の雑誌において、硬直化した「論壇」や「文壇」から批評精神は出てこない、ということは当然の前提となっていたように思える。
お作法やイデオロギーに染まった「壇」では、言葉と現実が無邪気になれあい、言説がオートマティックに推進されてしまう。しかし、批評ないし批判とは、何よりもまず言葉と現実のあいだのギャップ(ずれ)の意識から始まるものである。
たとえば、『リュミエール』の責任編集を務めた蓮實重彦にとって、映画は言葉ではついに所有できない他者である。この光り輝くメディアを前にして「書くことの特権性」は崩れ去るしかない。言葉を超えたものを言葉で追跡するという不可能な営みこそが、『リュミエール』の「思想」なのだ。
かたや『へるめす』や『GS』の場合、社会のみならず文化・芸術まで含めてさまざまな領域の横断性こそが強調される。とても全体を見通せない複雑怪奇な現実を前にして、領域間の異種配合を積極的に推し進めることが、思想の言葉を生き残らせる鍵となった。
『アステイオン』ではアメリカとの対立が深まるなか、戦後日本の自己認識の輪郭が崩れつつあることが、ギャップの意識の源泉となった。
よく知っていたはずの《日本》のイメージが経済的繁栄と対外的危機のなかで、徐々に解体されてゆく──このアイデンティティの揺らぎや混乱をいわば逆用するようにして、特に山崎正和は、日本が多元的な市民社会に生まれ変わることを望んだ。
つまり、《日本》からその自明性が失われつつあったからこそ、むしろそこに豊かな多事争論の場を創造する、それが山崎流の「柔らかい個人主義」の実践であったと言えるだろう。
もとより、そのような多事争論の場が、お作法の固まった「論壇」の言説に舞い戻ってしまう危険性は常にある。とはいえ、雑誌の出発点に、日本の現実が旧来の言葉とずれつつあるというギャップがあったことは確かである。
山崎正和という批評家が雑誌の中心にいなければ、そのギャップが際立つことはなかっただろうし、冷戦と昭和の末期に生まれた『アステイオン』が令和まで続くこともなかっただろう。
◇ ◇ ◇
私から見ると、80年代は雑誌の時代であり、特に季刊の批評誌で面白いものが目立った時代である。
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