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「論破」と「マウンティング」から離れて...大学生との対話で得た気付き

ニューズウィーク日本版 / 2024年8月14日 13時0分

山崎は「思想というものは、本質論という発想にかまけて『日付のない現象』ばかり扱うのではなく、自分が生きている時代と場所に課されている問題と取り組まねばならないと考えていた」というのだ。

私は『Voice』を編集するうえで、読者にとって「手触り感」のある記事を意識してきた。時代が変質するいま、大局的な議論が必要不可欠だ。一方、読者からすれば、まずは日々の自分の暮らしを大事に思うのは当然である。その感覚に応える努力をしなければ、「役に立たない」と思われかねない。

週刊誌も月刊誌も季刊誌も、表紙に「何年何月号」などと冠する。そして、執筆者も編集者もおのずから、その「日付」に世の中に発信することを意識する。同じ時代を生きる読者に向け、その瞬間にこそ議論すべきテーマを届ける。

当たり前のように聞こえるが、それが雑誌というメディアの存在意義であり続けていく。

もう一つだけ、今後の雑誌に求められる態度を考えると、私はユーモアや親しみやすさだと感じている。「論壇誌」や「知的ジャーナリズム」と聞けば、いかにも知性主義を身にまとった堅苦しい雰囲気を読みとり、直感的に敬遠する読者もいるだろう。

それでは互いにもったいない。敷居は低く、しかし奥行きがある。気軽に立ち寄ることができて、気づけば長居してしまう。論壇誌、そして知的ジャーナリズムは、そんな存在をめざすべきだと思うのである。

冒頭とは別の場で大学生の前で話をしたとき、驚かされたのが、「原稿を依頼する執筆者はどんな基準で選んでいるのか」「特集内の記事の並び順はどう決めているか」「タイトルを考えるときには何を意識しているのか」などの鋭い質問が相次いだことだ。

私自身、一編集者として心構えについてあらためて見直す機会となった。

ちょうどその直後に『アステイオン』の創刊100号を読んだからか、どうしても意識させられたのが、初代編集長である粕谷一希の存在感だった。

創刊号の編集後記で「今日のジャーナリズムの荒廃」への憂慮を記した粕谷は、「野心的新人」と「野心的テーマ」を発見しようとし続けたという。安定が好まれる現代社会にあって、「野心」とは何とも魅力的で、知的ジャーナリズムや論壇誌の未来を照らす言葉ではないだろうか。

水島隆介(Ryusuke Mizushima)
月刊誌『Voice』編集長。1985年、神奈川県生まれ。2008年、早稲田大学第一文学部卒業。同年、PHP研究所入社。「歴史街道」編集部を経て、2018年1月より『Voice』編集部。2020年1月より現職。

 『アステイオン』100号
  特集:「言論のアリーナ」としての試み──創刊100号を迎えて
  公益財団法人サントリー文化財団
  アステイオン編集委員会 編
  CCCメディアハウス

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