株価暴落の世界的連鎖は地政学危機に拍車をかける
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月6日 18時13分
キース・ジョンソン(フォーリン・ポリシー誌記者)
<ヨーロッパと中東で戦争が続き、秋には米大統領選を控えるなかで発生した株価暴落の影響は>
2024年8月5日は世界の市場にとってほとんど最悪の一日となった。アメリカ経済の減速懸念がアジア、ヨーロッパとアメリカの株価下落を引き起こし、一方で安全な避難先と見なされている米国債やドイツ国債に資金が流入。株価急落による損失をなんとか避けようとする投資家たちはパニックになった。
日本の日経平均株価は前週末比で12%下落し、パニック売りを防ぐために一時的に売買を停止する「サーキットブレーカー」が複数回にわたって発動された。韓国の総合株価指数は、2008年のリーマン・ショックに端を発した金融危機以降最悪の9%安を記録した。ヨーロッパの市場も2~3%の下落を記録し、米ダウ平均とナスダックも取引開始直後から売りが広がった。
米シンクタンク、ブルッキングス研究所グローバル経済開発部門の上級研究員であるロビン・ブルックスは、「市場は幼児のようなもので、いつ癇癪を起こすか分からない。物事は常に白か黒かの両極端で、中間のグレーはない」と述べた。
今回の世界同時株安は、多くの意味で問題だ。最も大きな問題は、数十億ドル、場合によっては数兆ドル相当の金融資産が失われたことだ。その影響がじわじわと広がり、近いうちに消費者心理や製造業の景況感、住宅着工件数や雇用創出といった、各国経済および世界経済の繁栄にとって重要な部分に波及する可能性がある。
最悪のタイミング
タイミングも最悪だ。ヨーロッパと中東では現在大規模な戦争が起きており、東アジアでは緊張も高まっている。イギリスでは移民反対の抗議デモが暴動に発展し、ヨーロッパでは極右の台頭により分断が深刻化している。領土的野心を露わにする中国に近隣諸国は警戒感を強めており、国際社会にとって重大な意味を持つ米大統領選がわずか3カ月後に迫っている。
では一体何が起きたのか。きっかけは2日に発表された米雇用統計が予想よりも悪い内容で、これにより米景気の悪化懸念が急速に高まったことだ。米連邦準備理事会(FRB)はいまだに腰が重く、7月末の会合でも(高い水準にある)政策金利の据え置きを決定した。
今回の株安を受けてFRBは、いずれ訪れる「嵐」に備えるために、迅速かつ大幅に金利を引き下げる圧力にさらされている。
とはいえ、原因は雇用統計だけではない。FRBは7月に発表したベージュ・ブック(地区連銀経済報告)で、消費者ローンや新車販売など、これまで好調を維持してきた分野に潜在的な弱点があると示唆したのだ。
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