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日本人が草案したタイの刑法...「不敬罪」の有罪率がほぼ100%である背景とは?

ニューズウィーク日本版 / 2024年9月4日 11時0分

新井勉『大逆罪・内乱罪の研究』(批評社、2016年)に詳しく述べられているように、日本においては内乱罪の適用例はないことに加え、天皇の身体に対する明確な害、もしくは未遂に対してのみ大逆罪が適用された。

何をもって天皇の名誉を毀損したと判断するかがかなり難しく、この運用を見誤れば逆に天皇の尊厳を害し兼ねないという見方が強かったからである。

例えば、天皇や皇族の悪口を言ってその名誉を毀損したとして大逆罪が適用されたとすれば、皇室の名誉は一介の市民による悪口で毀損され得る程度のものであるという印象を与える可能性があり、むしろ神聖化の弊害になるのではないかと危惧されたのである。

一方タイでは、不敬罪(≒大逆罪)と扇動罪(≒内乱罪)の適用は頻繁で、これが現在起こっている「不敬罪」の改正要求の背景にある。

特に不敬罪の検挙率は増加の一途を辿っている。不敬罪も扇動剤も有罪率はほぼ100%で推移しており、起訴されたら逃れる方法は無い。加えて、不敬罪の運用はかなり複雑で情報の整理が困難な場合が多い。

また、何度憲法が変わろうとも国王の不可侵性が保障されていて不敬罪や扇動罪で起訴されることが同時に憲法違反にもなり得ることから、通常の司法裁判所だけでなく憲法裁判所による判断が下されることがあり、審議が長期化する場合がある。

犯罪ごとに刑罰が加算される併科主義を採るタイでは刑が重くなりやすく、一方で不敬罪は国王の恩赦以外に減刑が見込めない。これらが勾留や裁判の長期化や罰則の複雑化を招いている要因でもある。

ストレックファスは不敬罪や扇動罪の厳罰化のデータを示しながら、その思想背景についても議論を展開している。

タイが植民地化されなかったことの「利点」は、西欧的な技術や制度を取り入れる一方で、ヨーロッパ的な思想の輸入をコントロールできたことにあるという。

つまり、幅広い民衆の討論や批評、そして政治参加が必要であるという考え方の拡散を厳しく統制することで、「タイ的」な政治思想を維持、発展させてきたという。

この考えのもとでは、物事の「真理」にアクセスできるのは、富や地位、学歴によって示される功徳の高い人に限られ、凡人は真理を知覚するための精神的・霊的な鍛錬に欠けているとされる。

そのため、功徳の高い人々、つまり社会的エリートたちだけが国家を良き方向に導くことができ、同時に、国家に脅威を与えるような発言をする個人や集団を罰することは当然であると捉えられているという。

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