岸田首相のサプライズ退陣表明がサプライズでない理由
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月14日 19時32分
2021年10月に発足し、高支持率を誇っていた当初の岸田政権は、麻生太郎副総裁と茂木敏充幹事長による「三頭政治」によって支えられていた。その後、パーティー券裏金問題での派閥解消等を巡っていったんは相互の信頼関係が瓦解したようにも見えたが、三者三様の手詰まり感も見えていた。
例えば麻生副総裁がキングメーカーとして采配を振るうには、上川陽子外相や河野太郎デジタル相は「手持ちカード」として盤石とまでは言えず、好みが分かれることは否めない。茂木幹事長にしても有力総裁候補と目されながらも、自らの派閥(平成研)から小渕優子選挙対策委員長や石井準一参議院国会対策委員長ら参院幹部が離脱し、岸田政権中枢の幹事長でありながら総裁選出馬を表明すると「令和の明智光秀」批判を浴びるおそれもある。岸田首相にしても安倍派パージに成功したものの報復でいつ寝首をかかれてもおかしくない。
他方で、2021年夏に総裁選出馬断念に追い込まれた菅義偉前首相や武田良太元総務相ら非主流派の動きも顕著になってきた。自民党内の権力闘争が激化していく状況にあって、岸田首相が大方の予想を裏切るタイミングで不出馬を表明した。そこに、いわば先手必勝でイニシアチブを取ろうとする狙いがあったとしても不思議ではない。小林鷹之前経済安保相(通称コバホーク)等の若手政治家への期待も沸き起こっているが、新生自民党の看板にはなるとしても、性急な世代交代は長老には都合が悪い。そうした世代間の権力闘争についても、差配と調整を担うイニシアチブが重要だという計算もあったであろう。
有利なのは「党内組織票」の茂木か、「国民人気」の石破や小泉か
もう一つ、政治腐敗に対する検察捜査の動向もある。東京地検特捜部はこの1ヶ月で立て続けに、選挙区で香典を配布した疑いで堀井学衆議院議員(自民党離党)、公設第二秘書の給与を詐取した疑いで広瀬めぐみ参議院議員(自民党離党)それぞれの議員会館事務所等を捜索した。政界の腐敗に対する検察の追求は緩んでいない。他方で、通常国会での政治資金規正法改正は中途半端に終わってしまった。そうした中、岸田首相は記者会見で「組織の長として責任を取る」ことを明言。これで派閥パーティー券裏金問題に「終止符」が打たれるとは言い難いが、しかし、一国のトップが「この問題の責任をとって身を引くこと」を公式に表明した以上、一定の「けじめ」効果が生じることも否定し難い。
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